第九話

 ショッピングモールに着いた僕たちはようやく人々の喧噪を耳にする。思わず耳を塞ぎたくなった。それほど先ほどまでの僕たちの空気は酷く静かであったのかもしれない。最もそう感じていたのは僕の心理状況のせいであったのだと思うけれど。ただ、むしろこの騒音のおかげで僕はその重い口を開くことができた。

「……花咲さん、ショッピングモールについたけどどうする?まずは服とかでも見るかな?」

「そうだね、せっかくだから私に前田君の服でも見繕わせて」

 そう言って軽く微笑んだ彼女を見て僕は安心した。僕はもう借金に悩まされることもないんだから、楽しく過ごせばいいんだ。ここ最近の目まぐるしい変化で気づかなかったけど、精神状況は不安定だという事にようやく気付くことができたから良しとしよう。さっきまでのはきっとこの安寧を取り戻した代わりの副作用的な感じだ、と思い直すと胸の中でわだかまっていた何とも言えない違和感のあるものを吐くことができた。

「見繕わせてなんて、むしろ僕の方からお願いしたいぐらいで……えーっと、よろしくお願いします」

「お願いされました」

 そう言うと彼女は控えめな笑い声を出した。

 僕らはそのままメンズの服屋に向かった。彼女が僕に勧めてくる服は派手過ぎず地味過ぎずで傍目から見てもおしゃれそうだなって思えるようなものだったので素直にすごいなと思うのと同時に、気づけば服よりも楽しそうに服を選んでいる彼女を見てしまっていたことに気づいてひそかに恥ずかしくなった。

 その後、何着か勧めてくれた中から、お金もそんなにあるわけではないから一着だけ選んで買おうとしたら、花咲さんがさも当然かのように他の服を持って払おうとしたので慌てて声をかけ、渋い顔をする花咲さんを相手にどうにかこうにか説得して僕だけが払うようにした。

 会計を終えた僕らは店から出て、なんとはなしに歩き始めたけど次の目的地もなかったため話しかけた。

「僕だけが選んでもらったけど、花咲さん自身の服は見たりしないの?」

「うーん、こっちに来たときに毎回のようにお父さんに買ってもらってるから今日ぐらいはやめておこうかなって思って」

「じゃあ、もう昼も過ぎているしご飯でも食べる?」

 ちょうどフードコートに差し掛かったときに見えた時計が1時を指していたため、僕はそう提案する。その時に花咲さんもちょうどフードコートの方を見ていて、一度自分のお腹を軽くさすってから、うんと頷いた。

「花咲さんは何か食べたいものでもある?」

「まだ決まってないな、こういう所っていっぱいありすぎて悩んじゃうよね。どんなのがあるかなって見て、これいいなって思っていたら最後に見た店が同じくらい魅力的に思えて、店を行ったり来たり。自分は面倒な人間だなって思うのと同時に、この悩んでる時間も楽しいから、反省できないんだよね」

 中学の時にフードコートを前にして思っていた僕の感情と完全に一致していたため、僕は食い気味にうんうんと頷いた。

 反省できない僕たちはそこから10分に満たないぐらいの時間を悩みまくった結果僕はうどん、花咲さんはスープカレーに決まった。最も安いかけうどんを注文し終えた僕は流れ作業のように出てきたうどんを横にスライドし続け、料金を払って花咲さんがすでに座っている席の正面に座った。テーブルにはフードコート特有の音が鳴る機械のようなものと紙コップ二つが置かれていた。ありがとうと言って、食べずに数秒待っていると、予想はしていたけど花咲さんが「先に食べてて」と言ってくれたから、軽く謝って割り箸を割った。

 その後機械が鳴って、花咲さんが湯気の立っている美味しそうなスープカレーを持ってきた。なるべくゆっくり食べていたつもりだけど、それでも早く食べ終わってしまったため、店の方に目を向けてすでに知っているメニューを興味深そうに見続けていた。

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僕と君のこころはつながっていた 半月 @yukiriasu

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