最終回 復楽園

 背中に、冷たく硬い床。

 胸元を、生温く汚す赤。



「イヤァッ! 嘘でしょ、アキラ!!」



 カグヤ──



「早く医者を!! 誰か……誰か!!」



 つば姉──



 2人の声が、すぐ側で響く。

 僕にすがりついて泣いてる。



「やったぞ!! 魔王アキラに天誅を──あぐッ!」


「じっとしな!!」



 あかさんの声、だ。

 取り押さえた、か。

 撃った、奴。



「反逆者は死刑だって聞いたろ!」


「俺の名は魔王を討った勇者としてのこる、死して悔いなし!」



「ああ、のこるよ」



「……え」



 あかさんに組み敷かれた男の。

 頭を、ガスッと、踏んづけた。



「ただし勇者じゃなく、愚者として」

「貴様!? その傷で何故なぜ!!」


「無傷だよ。自分で仰け反って転んだのさ、撃たれたと見えるようにのりの袋を破りながら。演技の稽古は大変だったぜ」



 一方、カグヤとつば姉は慣れたもんだった。

 今も迫真の演技、女王の日々の賜物だって。



「バカな……!」


「バカはテメー等だ。オレ達は言わば魔王倒した後の勇者様御一行。ポッとの小物にどうこうできるか。暗殺計画は筒抜けだし、銃弾避けるなんてオレには朝飯前だ」


「あ、あ……」



「そしてこちらが別動隊の狙撃手でーす!」

「そしてコイツが首謀者だ」



 ドサッ

 ドサッ



 艦長さん──ゆきさんが陽気な声で男の側に、自分が見つけ捕らえ担いできた別の男を投げ落とした。次いで蔵人クロードが初老の男を投げ落とす。



あかさん、艦長さん、蔵人クロード。ありがとう」


「フフッ、どういたしまして」

「お安い御用よ、アキラ~」

「いい運動になったぜ」


「では、用意を」


「(×3)イエス ユア マジェスティ!」


「なッ!」

「何を!」

「ああ!」 



 あかさん・艦長さん・蔵人クロードの3人が、それぞれ自分の捕らえた男を裸にひんき手足を縛り、それらをタタミじょうほどの板の上に三段重ねに乗せて、崩れないよう縄で括る。


 僕とカグヤとつば姉の許には、人の身長ほどもある長い包丁──まぐろぼうちょうが運ばれてくる。そのつかを、3人で一緒に握る。そしてその刃を、一番上の段の男の裸の腹の上に乗せた。


 艦長さんがマイクを取る。



『それでは! 夫婦となった3人の初の共同作業──』



「ふざけるな! こんな風に死ぬなんて話が違う!! やめろ、やめろォッ!!」

「待ってくれ、私は違う! 金で雇われただけなんだ、こうていへい万歳!!」

「嫌だァーッ! 死にたくない! お母さん、助けて!!」



反逆者ケーキ入刀カットでーす!』



「「「ああああああああああ──」ああああああああああ──」ああああああああああ──」



「フハハハハハハハハハハ!! 見よ! これが身の程もわきまえず我に逆らった愚か者どもの末路だ! アアーハッハッハッハ!!」




 ◆◇◆◇◆




 それから。


 まずはお色直し。僕とカグヤとつば姉は血に染まった衣装を脱ぎ、お風呂で血を落とし、上がってから着替えた。2人はもう1着ずつ用意しておいた同じウェディングドレス、僕は今度は普通の黒いタキシードに。


 そして披露宴。


 3人で改めてケーキカット。

 今度は本当の意味のケーキ。


 広大な会場で、集まった大勢の参加者と共にケーキとご馳走を頬張った。その中にはオヤジ──アフリカでお世話になった組織のボスと、その組員の仲間達も招いた。以前通り親子同然に接してくれたオヤジ以外、こうていになった僕に微妙に緊張していたが、艦長さんら元々気安い仲間達に無礼講に徹するよう協力してもらうと、みんなもつられてそうしてくれた。


 宴が終わり、その日の夜。

 花嫁2人と初夜を迎えた。


 こうていと、こうにして女王の2人に相応しい天蓋つきの大きなベッドで、ウェディングドレス姿の2人と生涯1度の特別なH。ロマンチックなムードにひたりながら僕達は夜明けまで愛し合った。


 翌日、世界中を巡る新婚旅行へ出発。


 世界中の人々にこうていさいの姿を見せて世界が統一されたことを知らしめ、また各地の慰霊碑に献花して戦没者たちをいたみ、その霊にこれからの平和のために尽くすことを誓った。


 師匠。

 竜月タツキ

 ヨモギ。

 悠仁ユージン


 僕のせいで死なせてしまったみんなが僕を許してくれるかは、あの世で再会してみないとわからないけど。少なくともその時に胸を張って会えるよう、僕はカグヤと氷威コーリィと一緒にがんばるよ。




 ◆◇◆◇◆




 しばらくして、新婚旅行を終え。

 僕達は新しい日常を始めた。



「じゃ、お義母かあさん。父さん、母さん、いってきます」

「お義父とうさま、お義母かあさま、ママ、いってきます」

「お義父とうさま、お義母かあさま方、いって参ります」


「(×3)いってらっしゃい」



 笑顔で手を振るカグヤのお母さんと僕の両親に見送られ、宮殿を出る。僕達夫婦は今、この3人と暮らしている。3人とも仲が良く、僕達みんなにこれでもかと愛情を注いでくれていて、家族円満だ。


 僕の両親はルナリア王国が四大国を併合した時から、僕の身内ということで類が及ばないようカグヤが保護してくれていた。おかげで僕は、必ず帰るという両親との約束も果たすことができた。再会した時は、互いに大泣きした。


 僕は今通っている高校の学生服。

 カグヤは茶色のオーバーオールと帽子。

 つば姉は白のワンピースに僕の贈った空色リボン。


 カジュアル!


 3人とも現実リアルで初めて見せた普段着と同じ服装。

 こうていさいだけど、プライベートではこんなもん。


 3人手を繋いで町を歩き、最寄のアーカディアン専門店へ。別室に別れて各自ログイン、電脳世界でアバター同士で再会する。


 踊り子みたいな姿のカグヤ。

 剣道着姿のつば姉──氷威コーリィ

 生身と違って昔のままの僕。


 そして。


 黒衣の銀髪美人エイラ。

 金髪の少年姿の蔵人クロード


 2人も合流。



『これより集団の部、第1試合を開始します』



 グラール──しまさんだ。意識が戻ったのはいいけどまだリハビリ中ということで、今回は運営側として司会と実況に専念している。



第5回・機巧操兵アーカディアン世界大会



 第1回以降、僕が離れている内にアーカディアンの中では新たな猛者が育っていた。Gが関係ない純粋な操縦技術では僕も勝てるか怪しい人がわんさかいる。こんなに嬉しいことはない──


 全員、ブッ倒す!!



『VDファイト! レディ、ゴー!!』



「チーム・クロスロード、出撃!!」


『オーラム! 蔵人クロード、行くぜ!!』

『アルマース! エイラ、出る!!』


『シルバーン! カグヤ、行くわよ!!』

『グラディウス! 氷威コーリィ、出ます!!』



「オーラム! アキラ、行きまーす!!」




◆ こうそうへいアーカディアン ◆


【 完 】

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機巧操兵アーカディアン 天城リョウ @amagiryou

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