第54話 ミカド=アキラ

 左にカグヤ。

 右につば姉。


 花嫁衣裳の2人。


 純白のウェディングドレスに。

 ヴェールの向こうの照れた顔。


 綺麗だ。



「「わたくしたちはこの者を夫とし、永遠に愛することを、ここに誓います」」

わたくしはこれら両名を妻とし、永遠に愛することを、ここに誓います」



 台座に乗った結婚指輪が運ばれてくる。


 指輪は4つ。まずは新郎の僕がその内の2つを手に取り、カグヤとつば姉の左手の薬指に同時にはめる。次にカグヤとつば姉が1つずつ取って、それを僕の左手の薬指に一緒にはめた。


 左手でカグヤの。

 右手でつば姉の。


 2人のヴェールを同時に上げる。頬を赤く染めた2人の顔が僕に近づき、左右の頬に同時に口づけ。僕はカグヤの左手とつば姉の右手を両手で取り、並べた2人の手の境目に口づけした。


 誓いのキス。


 元々の習慣でも唇同士でなくてもよいと聞いた時はほっとした。どちらか一方を優先することは僕の気持ち的にもしたくないし──


 政治的にも問題がある。



「我が親愛なるルナリア王国の皆さん」

「我が親愛なる地球連合王国の皆さん」


わたくし十六夜いざよいかぐやと」

わたくし佐甲斐さかいつばめは」


「「この度、1人の同じ男性と結ばれました。それはわたくしたちも、わたくしたちが君主を務める両国もまた、婚姻の絆で結ばれたことを意味します。よって、両国はこれよりどうくんれんごうを締結し、互いの体制は維持しながら、1つの連邦国家となることを今ここに宣言いたします」」



 ワァァァァァァッ──

 パチパチパチパチ──



「「今、この瞬間。有史以来初めて全人類が1つの国家に属することとなりました。この統一国家の名は〝クロスロード帝国〟──交差道路クロスロードとは、地球と月は互いにその軌道を交差させながら共に太陽の周りを公転していることを意味します。月が地球の周りを公転している、というのは地球から見上げた時の感覚からくるものであり、より公平な観点から言えば、両天体はその共通重心の周りを公転する二重惑星なのです。国名をもってこのことを強調するのは、アースリング・ルナリアンと呼び分けられるようになってしまった両者の間に上下はないことを示すためです」」



 再び、万雷の拍手と喝采。



 クロスロード。アーカディアンでの、僕達のギルドの名。元々そのギルド名も地球と月が対等に交り合うという意味を込めて、創設者の悠仁ユージンがつけたものだとカグヤは語った。ギルドができたのは地球と月の戦争が始まる数年前。その頃には悠仁ユージンは月を独立させ地球と戦う準備をしていた訳だけど、もしかしたらいつかこんな日がくることを願っていたのかも知れない。



「「そして」」


「ルナリア王国におけるわたくしの共同統治者であり」

「地球連合王国におけるわたくしの共同統治者であり」


「「帝国全土に統治権を持つ唯一の主。その君主号は──〝こうてい〟!!」」



 巨大な垂れ幕で〝こうてい〟の字を開示する。



「「その初代こうてい、即ちこうていたいかんの儀を、これより行います」」



 運ばれてきた豪奢な帝冠を。

 カグヤとつば姉が2人で。

 ひざまずく僕の頭に──かぶせた。



 バサァッ!!



 マントをひるがえし、2人に代わって前に出る。

 僕の姿は新郎らしいタキシードではなく。

 高貴なる紫の生地に金糸で獅子を描いたてい


 浅黒い肌に。

 白い髪の。


 世界の征服者。



「我が名は──アスラン!!」



 掌を天に向け。

 両手を掲げる。



こうていアスランである!!」



 ワァァァァァァァァァァァァァァァッ!!



「我をたたえよ! てんじょうにもてんにも、我よりとうとき者はなし!!」



こうていへい、万歳!!」

こうていアスラン、万歳!!」

「「バンザァァァーッイ!!」」



 参列者たちから、割れんばかりの大合唱。

 手をかざし声を止め、万民へ語りかける。



「聞け!! 我は諸君の支配者だ! 君主とは名ばかりの民衆の奴隷ではない! 〝君主は民の為に在る〟などというじんこうかいしゃしたたわごとが我に通用すると思うな。我は我のためにある! 我は我の幸福の追求、ただそのために生きている。それはヴェサロイドを操縦し、親しき者等と笑い合い、愛する妻等といちゃラブえっちな日々を送ることだ!!」



 キャーッ!



「同様に、君は君のために生きろ! 人は皆、己のために生きるものだ! そして君が我の幸福を妨げない限り、我は全力をもって君が己の幸福を追求できるようその健やかな暮らしを守る! ならそれが我の幸福に繋がるからだ! 皆が健やかであれば我の幸福な時間が妨げられないからだ! それが我と諸君の、君主と民の契約だ!!」



 ウォォォォッ!!



「諸君の中には我や我に連なる者を深く恨む者もいよう。それは人として当然の感情だ。君がかたきを討つのなら、我は1人の人間としてその行為を認める──だが、法はそれを認めない。動機の如何いかんに関わらず、犯罪はただ犯罪として公正に罰する。願わくばその恨みを胸に秘め、共にこの世界で生きることを受け入れてほしい。許さずともよい、好かずともよい。君が我をどれだけ憎もうと、君が法を守り我が幸福を妨げぬ限り、我は君の味方だ」



 ワァァァァッ!!



「最後に!! 我が支配を良しとせぬ者達へ告げる! 我から独立せんとする者、我を打倒せんとする者よ、その行いは帝国法の上では極刑にて裁かれる国家反逆罪となる──しかし、悪ではない!! 元より我とて普遍の正義などではない。我の正統性の根拠は〝勝者が敗者を従える〟というこの世の摂理のみ! その摂理の下では全ての者がこの世で覇を競う権利がある! 君がその権利を行使する時、君は我と対等なる敵である! 敵への礼儀として、我は全力を以て君と戦う! それが望みならばかかってこい! 我は誰の挑戦でも受ける! オール ハイル クロスロード!!」



「「オール ハイル クロスロード!!」」



 地球においてまだルナリア王国・地球連合王国のどちらにも服属していなかった地域は、あのあとササッと征服した。世界の全てが2国のどちらかに属し、その両国が1つになったことで蔵人クロードが、アルカディアが目指した完全な人類統一を成し遂げた。


 この世界の全てを背負って、僕は生きる。

 みんなのために戦う、その誓いを果たす。


 果たし続ける!!



「「オール ハイル アスラン!!」」



「「オール ハイル アスラン!!」」



「「オール ハイル アスラン!!」」































「ミカド=アキラに制裁を! 全人類に栄光あれッ!!」































 乾いた銃声が鳴り響き。

 僕は……床に、倒れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る