第53話 みんなのために
「何、言って。月の革命は
『その
「な!?」
国連軍月方面軍……国連統治下にあった月に配属された国連軍の部隊。
そう、国連軍は彼等と戦ったんだ。その国連軍のトップを続けながら裏では月の革命に加担していたなんて、月と戦った国連兵への裏切りじゃないか。その中には僕も、つば姉も、艦長さんたち
死んだ人達だって……!
その中には師匠も……!
「
『いいや。
「何だよ、それ……」
僕は
でも、
怒れば相手の思う壺だ。やり方は気に入らないけど、
え?
「ちょっと待って。ならなんで今、地球連合王国を率いてルナリア王国と敵対しているのさ。それもコロニーを全て破壊してルナリアンを根絶しようとまで!」
『あはははは! 人が
「目的……?」
『人類の統一』
善いことに聞こえるその言葉を。
告げる
◆◇◆◇◆
昔、ある国で大きな災害が起きた。
助けようもなく死亡した者も多かったが、死の淵に立たされながらも助かる望みはある者もまた大勢いた。そうした人々を救うため、諸外国から軍の救助隊を派遣する申し出があった。
それを、その国は断った。
救助と言いつつ、実は侵略が目的かも知れない軍を入国させる訳にはいかないからと。結果、自国だけでは救助の手が足りず。他国の軍を受け入れていれば死なずに済んだかも知れない人が、大勢死んだ。
そうして家族を失ったある男は決意した。二度と自分と同じ苦しみを味わう者がないように──
世界から国境をなくそう、と。
あらゆる国にとって他国は全て敵国か仮想敵国。たとえ今は交戦していなくても、友好国でも、いつそれが変わるかわからない。その国と戦争になることは常に警戒していなければならない。
その後、第3次世界大戦が始まった。
男はこれを利用することにした。国の統合は戦争をして勝者が敗者を征服するのが一番手っ取り早い。そして男が立ち上げたのが──
彼等は自らが味方した国を勝たせることで敗戦国の併合を促し、やがて全人類を統一するという創設理念の下に戦っていた。そしてそれまで無数にあった国々は次々と統合されていった──
が。
第3次世界大戦は、複数の国家を残したまま終結した。しかも戦後世界の大半を占めた四大国はいずれも強大すぎ、戦い合えば世界が滅ぶとの危機感が抑止力となって、再び大戦が起こる可能性は極めて低くなった。
艦長さんや
アルカディアは解散したが、
今度こそ人類を統一するため。
再び世界大戦を起こす計画を。
そこで目をつけたのが月だった。月市民たちは反乱を起こすに充分な不満を抱えていたし、月は国連直轄地で国連軍以外に軍隊が置かれていないのも細工をするのに好都合だった。
そうして月の独立戦争は起こった。
さらに
ルナリア王国の隕石落としが完全に成功し、地球の住人が全滅してしまっていても、それはそれでよかった。そうなればルナリア王国の完全勝利によって人類統一が成る。
だがそうはならなかった。
僕が隕石を割ったため犠牲者は減り、勝者たるルナリア王国の支配が及ばない領域で生き残った者達は徐々に力を回復していった。
この事態も予想されていた。
このルートに
その計画に従い、
◆◇◆◇◆
『あとはルナリアンを滅ぼして終わりだ』
「はっ、はっ──」
胸が苦しく、心臓が早鐘を打っている。
告げられた真実は、あまりに重かった。
師匠。
ヨモギ。
津波に呑まれて死んだ名も知らぬ女の子。
避難所で撃ち殺したおばさん、難民たち。
これまで死んでいった人達。
みんな、
いや、違う!
「なんで、そんな、
ふと、そう思った。
「全ての人が助け合える世界。優しい願いのはずなのに、その過程で失われる命にまるで
『そうだよ』
「なっ!?」
『君の言う通りさ。今の俺は統一の過程でどれほどの命が失われようと、統一後の世界で平和を享受するのが誰であろうと構わない。統一って結果さえ得られればいい』
「何で……」
『創設者と同じ理想をかつて俺も抱いていた。世界中の人々の幸せを願って戦っていた。だが地獄のような戦場暮らしの中で俺はいつしか、そこで絆を結んだ最も身近な戦友たちこそ一番大切に想うようになっていた。見ず知らずの誰かより、そいつ等とこそ理想を叶えたあとの世界で笑い合いたいと願った……でも、みんな大戦中に死んじまったよ』
!!
『俺の本当の願いは決して叶わなくなった』
「なら、何でまだ」
『本来の動機は失った。でも、投げ出したらあいつ等の戦いが、生涯が無駄になる。それは我慢できない。あいつ等と目指したゴールに
胸が痛い。
その友情を否定はできないけど!
その行為を肯定もできない……!
『俺は過去に囚われた亡霊だ、未来は今を生きる君達が作るべきだ──が、そんな正しさ俺にはどうでもいいんだよ。叶えたい、あきらめられない願いが世の中にとって悪ならば。俺は悪でいい』
それは僕も同じだ。
カグヤもつば姉も。
ただ──
「僕達、クロスロードの仲間も。その人達の代わりにはなれなかったんだね」
『……ああ。みんなのことも好きだよ。でも俺の起こした戦争のせいで死んじまっても構わないと思う程度の友情さ』
ッ……!
「でも、
『ああ、感謝してるよ。ダイゴのおかげでVDを、搭乗式巨大ロボットをこの世に生み出すことができた。それが使われる戦争を起こし、ロボットに乗って戦うことができた。あいつ等と語り合った〝どうせクソみたいな戦争ならせめてロボットに乗って戦いてえ〟って夢をなんとか俺だけは叶えられた』
ん……?
「戦争を起こしたのが
『ああ、ちゃんと気づいてくれたよ』
「! まさか……」
『俺はVD開発計画の一環として月の工場で試作VDを大量生産させ、また月中のゲームセンターにアーカディアンの
「VDの件まで、アンタの……」
痩せ細って、白髪だらけになって。
ずっと放心状態のまま、車椅子で。
「
『知ってる。全く呆れるよな』
「なん、だっ、て……?」
『兵器作ってんだ、それで誰かが殺されるなんてわかりきったことだろうに。ダイゴだって〝ロボットアニメそのままの戦争、ぜひとも見てみたいものだ〟なんて言ってたんだぜ?』
……。
『それがどうだ、せっかく望み通りの戦争が起きたってのに、ネトゲ仲間が死んだくらいで。なんのことはない、人命より趣味優先のマッドサイエンティストのつもりでいたが、蓋を開けてみれば存外マトモな神経の持ち主だったってオチさ。
ブチッ
「
ゾーン突入、イクスモード!
になりながら使用武器変更!
『やっと火が点いたな! さぁ来い!!』
左ボタン類で
「
◇◇◇◇◇
胸の獅子がヘラクリーズの胴体目がけ
その激流の如きプラズマを取り巻く、流星の如き6条の閃光。
左右の手に持つ2門、肩の上に2門、脇の下の2門。
6枚羽根が変化した6門の
並行する計7門のビームが敵機を襲う。
レオニードの全射撃武器による一斉射。
◇◇◇◇◇
『なんのォッ!』
ヘラクリーズがイクスモードに変形しながら跳び上がって
ドガァン!!
被弾箇所、右の
損失、羽根が1枚もがれた!!
『1つッ!』
「このォ!」
残った6門で再び
ガオォォォッ!!
ガガガッ!
ドガァン!!
くそッ、
『2つッ!』
「ええい!」
ズサァァァッ!!
2度の一斉射の反作用によってレオニードは後ろへ吹っ飛ばされ、踏ん張る両足が月面をこすって砂を舞い上げている。その砂塵を猛スピードで突っ切って、ヘラクリーズが迫ってくる!
『3つ目ッ!』
「なめるな!」
ドキューン! ドガァン!!
ドキューン! ドガァン!!
『うおッ!?』
使用武器を手持ちの
『頭の切り替えが早いな!』
「破られた技にこだわるか!」
『だがここまで接近すれば!!』
ヘラクリーズが背中から
バヂィィィッ!
ガィィン!
ガキィン!
ガンガンガンガンガン!!
大剣と棍棒を何度も激しく打ち合わせる。向こうの
『もう
「ギルドの仲間を踏みにじったアンタに、もう手加減はしない!!」
『その方が身のためだ! 何故なら俺の方が強いんだから、なァッ!!』
ガァァンッ!!
「くッ!!」
剣を弾かれ体勢を崩し、追撃される前に後ろに
ざけんな!!
「僕は
『俺もこの3年、
「道理で上手いと思った!!」
ガィン!
ガィン!
ガィン!
大地を踏みしめ大地を蹴り、押して引いて回り込み。あらゆる角度から攻撃し、また敵の攻撃に対応する。剣を振り、剣を避け、剣を受け止め受け流す。両操縦桿と両ペダルを激しく細かく動かして。VD格闘戦はVD操縦の延長、機体自体の動きに連動させて腕の末端の武器を振る。
お互いに。
剣を通じて確かな技量が伝わってくる。昔の
『うおりゃぁッ!!』
「はぁぁぁぁッ!!」
だけど殺す。
殺して止める。この人がルナリアンを、カグヤの大切な人達を殺すのを。自分は悪だと開き直っているこの人は論破しようがなく、説得なんて通じようがないほど決意も固いから。殺さずに止められるほど
でも、このままじゃ殺せない。
相変わらずゾーンで予測した攻防パターンの中に僕の勝機が見えない。この未来を書き換えないと。今の僕を基準にした予測、前提が変われば結果も変わる。しかしどうすれば僕は今より強くなれる? 今の僕には何かが足りない、それはなんだ。
教えてくれ、オーラム……!
バヂィィィッ!!
オーラム……そう。
敵も、オーラムだ。
◇◇◇◇◇
〝オーラム〟
そのVDはアーカディアンにおいて、勧善懲悪な内容のロボット作品の
が、その実機は。
どんな姿だろうとただの兵器。正義の味方しか乗れないなんてことはない。道具である以上どんな使われ方をしてもおかしくはない。だけどオーラム=ヘラクリーズが
ヒーローに
そんなことをオーラムにさせるな。
そんなことする奴がオーラムに乗るな。
アフリカの港町を確保しに来た艦長さんがオーラム=レオニードで住人を
そう、僕にそんな資格ない。
間違ってばかりで。守るべき人さえ傷つけて。本物のロボットに乗れることに狂喜してその力を振り回す危険なガキ──それでも。
今の
思いつきじゃない。
こんな僕にもそういう気持ちはあるさ。
照れくさくて、柄じゃないとか考えて。
これまでできなかったけど。
赤の他人の身を我が事のように案じることはできない。でも、無法地帯でロクでもない圧政者を除いてまともな為政者を立てたら平和と繁栄が訪れて、そこの人達が笑顔になったのを見て。
こういうことを続けていって。
いつか世界中こうなればって。
──そう。
世界なんて大半が遠い他人の集まりのために尽くすのは、別に偽善じゃないんだ。それだって充分、自己の利益に
世界は繋がっているから。
一部が平和でも、どこかに戦火があればいつ飛び火するかわからない。平和だった僕の町にインロンが現れた、あの日のように。だから結局、世界中が平和じゃなきゃ、どこの平和も保てない。
自分にとって無関心な他人でも、自分の大切な人の大切な人かも知れない。大切な人の大切な人の大切な人かも知れない。だから結局、誰もが笑顔でなきゃ、自分の笑顔も曇る。
だから。
◇◇◇◇◇
「僕は戦う──みんなのために!!」
ガィィン!!
『結構! が、精神論じゃ勝てないぜ!!』
そらそうだ。
でも気持ちも大事だ。さっきまでの閉塞感が消えた。相変わらず手詰まりなのに負ける気がしない。
そうか!!
ゾーンの研ぎ澄まされた感覚は最も無駄のない効率的な動きを教えてくれる。オーラムのその最適解通りに動かしているはずなのに、まだどこかに無駄がある気がしていた。それは僕だったんだ。
僕自身の操縦動作。操縦桿を動かす腕の動き。ボタンを押す指の動き。ペダルを踏む脚の動き。もっと優しく滑らかに。僕の意思が滞りなく機体に伝わるように――
!!
『動きが変わった!?』
繋がった!
本当に、完全に!
オーラムと1つに!!
「ハッ!!」
右操縦桿だけ前へ! 機体の左脚を軸に右半身を前進させて旋回しながら剣を右から左へ横薙ぎ!
ガィン!
右操縦桿を引きながら左操縦桿を前へ! 今度は逆向きに旋回しながら左から右へ横薙ぎの燕返し!
ガィン!
『くッ、この……!』
ガィン!
ガィン!
機体の移動・傾倒によって剣を振りつつ、パッドの手動操作でその軌道を微調整、ヘラクリーズが構える棍棒の防御の薄い箇所を読んで狙い打ち、ヘラクリーズの体勢を崩す!
『チィッ!!』
ヘラクリーズが棍棒を振りかぶって振り下ろしてくる。
ドガァァァァッ!!
「しまっ!」
棍棒はしたたかに地面を打った。高周波振動で増幅された一撃が砂を吹き飛ばし、その下の岩盤を粉砕。足場が崩れてレオニードが一瞬動きを止める。これが狙いか! ヘラクリーズは後退して──
『剣では君が上だ!』
まずい!
『それでも、俺が勝つ!!』
ガオォォォッ!!
両操縦桿を跳ね上げ、レオニードが地面を蹴って跳躍! 直後にヘラクリーズの獅子の口から
グリッ
両操縦桿のグリップのひねりに連動して機体を180度前転!
ガオォォォッ!!
空中で逆さまになり、ヘラクリーズに背を向けた状態で
──さぁ。
両操縦桿を一番奥まで押し込む。
両ペダルを一番奥まで踏み込む。
──行こう、オーラム!
「
全速前進!
両操縦桿のグリップを再びひねる──
機体が前転しながら剣を真っ直ぐ──
「
ズバッ!!
『ぐあぁぁぁぁッ!!』
──縦一文字に、振り下ろし。
ヘラクリーズを、斬り裂いた。
◆◇◆◇◆
がしゃぁん
ヘラクリーズが仰向けに倒れ、停止した。その体はほぼ左右に両断されているが、頭部だけは顔が裂けているだけで完全に割れてはいない。ヘラクリーズが後傾姿勢だったためそこだけ傷が浅かったようだ。
「
シートベルトを外して席を立ち、後ろの扉を抜けてエアロックへ。さらにハッチを開いてレオニードの後頭部から外に出る。機体の首回りを歩いて前に──
!!
レオニードの顔面に銃弾が当たって弾けた! 音が聞こえなかった、真空の宇宙でも周囲の現象に合わせて効果音を鳴らしてくれるコクピット内じゃないから。無音だと察知能力が下がって心臓に悪い……!
「
レオニードの首元に伏せて見下ろすと、ヘラクリーズの顔の裂け目の側に宇宙服の男が立っていた。
「大丈夫!? 怪我してない!?」
『……外傷はないかな。体中痛いから中はどこかやられてるかも知れんが』
「じゃあ早く医者に!」
『ったく……すっかり殺気が失せてるな』
「そりゃさっきは
『ああ、完敗だ。この
「じゃあ何で撃ったのさ!?」
『足止めで。いいか、アキラ』
「え……?」
『俺との通信の
『ありがとう、楽しかった。色々ゴメンな』
「ダメだッ!!」
パァン!
銃声が自分の体を通して聞こえる。僕の撃った拳銃の弾が蔵人の拳銃に当たり、その手から弾き飛ばした。射撃の腕・仮想弾道予告線、この3年で身に着けた生身戦闘力が役立った! レオニードの胸から飛び降りる、18mを落下、月の低重力なら大丈夫──
『
2人もつれ合い、ヘラクリーズの顔から転げ落ちる。月の砂漠の上で取っ組み合って、
「負けた後の展開も想定済み!? 何でも思い通りにいかせるか!!」
『あの距離を
精悍な顔が緩む。
金髪の壮年男性。
「
『アキラ。俺が負けた以上、完全統一はもういいよ。せめて地球連合王国とルナリア王国の戦争を止めないと。そのためには人身御供が必要なんだ。人々を
「
『わがままだな君も』
「戦争は僕達が止めるから。
『いくら世界一優秀な俺だって、不本意なことを
「いいや、不本意じゃないはずだ。ねぇ、どうして生身では戦おうとしないの。〝あきらめられない願い〟って言ってたのに」
『それは……何でかな』
「ロボット同士の戦いで負けたからだよ。この世はロボットの操縦が上手い方が偉い、上手い方が正しい。最終回のロボットバトルで勝利する最強のパイロットが主人公、主人公が世界の意志だ」
『いや、その理屈はおかしい』
「そりゃ普通の人からしたらバカな話だよ。でも僕達はそのバカでしょ? ラスボスとのロボット戦のあと生身でもやり合う展開あるけど、そこでラスボスが逆転しちゃったら興醒めだから戦意喪失したんだよ
『ああ……そうか』
「でも、だったら。勝手にケジメつけず僕の言うこと聞いてよ。心から従えるはずだよ。だってロボットの
『ぶっ──アハハハハ!』
『そうだな――ロボットは、絶対だ』
◆◇◆◇◆
一方、L1北ハロー軌道の戦いは。
ルナリア王国軍。
地球連合王国軍。
双方が、僕と結婚すると言い出した女王を支持する者としない者に分かれ。
女王2人とその支持派と宇宙海賊。
ルナリア王国軍の女王不支持派。
地球連合王国軍の女王不支持派。
三つ巴の混戦になり、最終的に女王たちが勝利した。
これでいい。結局どんな道を選んでも万人に認められることはないし、同じように味方が1人もいないなんてこともない。認めてくれた人達と手を取り、敵となった者達は倒すことでしか前には進めない。
ルナリア王国女王、
地球連合王国女王、
2人は両国の戦争の終結を宣言した。
僕は
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