第52話 オーラムvsオーラム

 僕のオーラム=レオニードの極光剣ビームサーベルと、蔵人クロードのオーラム=ヘラクリーズの鬼のかなぼうのような振動棍棒ヴァイブロクラブつばぜりう。蔵人クロードには聞きたいことが山ほどあるが、熱核極光砲アトミックビームキャノンの脅威を排除するのが先だ!



 ダンッ!

 グイッ!



 左ペダルを蹴り込んでレオニードを右へ滑らせ! ながら右操縦桿を押し出すことで右半身を前に出してカーブ、ヘラクリーズの背後へ回り込んで剣を横薙ぎに一閃! EX-Modeイクスモードの超高速で一気に仕留める!!



『ヘラクリーッズ!!』



 なッ!?


 前傾して紙一重で避けられた──

 この気配、蔵人クロードもゾーンに入った!



 飛び退き、振り返るヘラクリーズの姿が変わっていく。



 顔の両眼をバイザーが覆う。

 胸の獅子の双眸が赤く輝き出す。

 肩とすねの装甲から放熱板が開いた。


 これは──



「イクスモード! やっぱりそっちにも!」


『そりゃ、このヘラクリーズはルナリアのこうしょうから強奪したオーラム=レオニード2号機を俺用にカスタマイズした物だからね』


「そういう……!」


『アキラ、ラスボスを速攻でとそうなんてすいだぜ? もっとじっくり楽しまなきゃ。さぁ──ファイナルバトルの開演だ! 全軍、突撃!!』



 ボボボッ!!



 蔵人クロード──地球連合王国軍総司令官クロード=ウィーラーげんすいの号令に、配下の艦隊とVD部隊が一斉に推進器スラスターを噴かせて加速した。



『待って、わたしの話を聞いて!!』


『ごめん氷威コーリィ! 向こうがその気な以上、防戦はしないと! 全軍、迎え撃て! 海賊の皆様もよろしくお願いします!』


『イエス! ユア マジェスティ!!』

『任せな! 愛鷹アシタカ、前に出るよッ!!』



 カグヤはつば姉を気遣いながらも、自分の臣下につば姉の臣下と戦うよう命令した。両軍が接近し、無数の弾道警告線が宇宙ソラを埋め尽くして砲火が飛び交う。


 会戦が始まった!



『ッ、ぐっ、うああああッ!!』



 つば姉が泣いてる……!

 よくもオレの嫁を……!



「つば姉!!」

『アキ、ラ?』


「まだ終わりじゃないよ!!」


『ッ…………ああ! わたしも彼等と戦う! コロニーの人々を守るために! 戦いながら、あきらめずに彼等を説得し続ける!!』


「その調子! 蔵人クロードは僕が! 2人共、またあとで!!」


『ええ、また! 氷威コーリィ、やるわよ!!』

『またあとで! ああ、やろうカグヤ!!』


『話は終わったかい?』

「ああ、行くよ蔵人クロード!」



 両軍の前衛同士がぶつかり、たちまち混戦となった。

 その最前線で僕と蔵人クロードの、オーラム同士が激突した。




 ◇◇◇◇◇




 蔵人クロード熱核極光砲アトミックビームキャノンで破壊したしんタカマガハラコロニーに住んでいた数千万人を、僕は知らない。見ず知らずの他人がいくら死のうと、本気で怒ることも悲しむこともできない。だけど彼等を同胞と慈しむカグヤは違う。僕にしがみついて泣き叫んだカグヤ。肌にふれた熱い涙。


 そして今、つば姉まで泣かせた。

 僕の愛する女性を2人とも──




 ◇◇◇◇◇




「僕、少し怒ってるよ! 蔵人クロード!!」



 バヂィィィィッ!!



 怒気を込めて振るった極光剣ビームサーベルは、しかし難なく受け止められた。レオニードの左手にも極光剣ビームサーベルを追加して二刀流で攻めているが、手数を増やしても全て余裕を持って対処されている。避けられ、受けられ、そして飛んでくる鋭い反撃に対処するこちらに余裕はない。


 強い……!



『怒ってんならコクピットをけず、殺す気でかかってこいよ! そんなヌルい剣じゃ俺は斬れないぜ!?』


「断る!」



 確かにそのせいで攻撃の選択肢が狭められている。

 ギリギリの戦いでこの負担は重い、それでも──



「友達を殺すのは二度とゴメンだ!!」


『このおよんでまだ俺を友達と呼んでくれるのは嬉しいが、俺は君とトコトン戦うのを楽しみにしてたんだ! 手を抜くのは勝手だが、俺を満足させるまで死なないでくれ、よッ!!』



 バァンッ!!



 大上段から振り下ろされた振動棍棒ヴァイブロクラブを、頭上で交差させた二刀で受け止める! が勢いまでは殺せず真下に吹っ飛ばされる……!



 グイッ──ガガガガガガッ!



 両操縦桿を引いて機体を下がらせた直後、上から降ってきた6発の弾丸が目の前を通りすぎた。ヘラクリーズが武器を持ち替えた、短機関銃サブマシンガンの二丁流に!



『今度は撃ち合いだ!』

「アンタが仕切るな!」



 使用武器変更、左右とも極光銃ビームライフルに! レオニードが光刃を消した極光剣ビームサーベルの柄をしまい、空いた両手に背中の6枚羽根から分離した2枚がそれぞれ収まる。振動長刀兼極光銃ヴァイブロウォーブランドビームライフル〝アルジーバ〟ツインガンモード!



 ドキューン! ガガガッ!

 ドキューン! ガガガッ!



 互いに相手の死角、真下や背面を取るよう飛び回りながら、機を見て撃ち合い、避け合う高機動射撃戦ドッグファイトに移行する。左右のライフルを手動照準、ヘラクリーズの頭部以外を狙う。最短で標的へ狙いをつける自動照準は便利だが動きが単調で読まれやすい。手動にすることでフェイントをかけたり、弾道予告線を敵機の進路上に先回りさせたりといった戦術が可能になる──が!



 ガガガッ!



 ヘラクリーズの銃撃を回避! するのも大変で、攻め切れない!


 この弾道警告線の動き!

 蔵人クロードも手動照準だ……!



 以前の蔵人クロードは使えなかったはず。



 VDの射撃は本来、自動照準でするものだ。親指でパッドをずらすことによる手動照準を使うのは、自機は静止してじっくり敵機を狙撃する時くらい。互いに高速で動き回る中で手動で狙いを正確につけるのはあまりに困難で、それができるのはアーカディアンプレイヤーの中でも僕達、一部の上位ランカーに限られた。その領域に今の蔵人クロードはいる。


 3年前は中位ランカーだったのに!



「3年でここまで上達を……! それとも昔は力を隠してたの!?」


『両方さ』

「え!?」


『長年ロボットを操縦するのが夢だった俺はダイゴと共にVD開発を始め、すぐ試作機で他のテスターと模擬戦をした。誰も俺に勝てなかった。だが俺は操縦が上手い訳じゃなかった』



 ドキューン!

 ガガガッ!



「どういうこと!?」


『第3次世界大戦で何度も死線をくぐける内に身についた超人的な反射神経のせいで、腕が上の相手にも勝てちまったんだ、ゾーンに入るまでもなく。それで勝っても操縦技術は身につかない。俺はロボットの操縦が上手くなりたかった。だからアーカディアンでは修行のために己にかせをはめた』


「それって──」



蔵人クロード、ギア1で戦ってるね。なんで?】


【俺の動体視力じゃ、ギア2以上にすると反応が追いつかなくてかえって戦いづらいんだ。自分にあった速度域でやるのが一番さ】


【ごめん! 僕、無神経なことを──】

【ははは! いいって、気にしないで】



「──アレ嘘だったの!?」



 ドキューン!



『っと! ああ、機体速度がギア1なら、他の奴のギア4と戦うのは流石さすがにキツかった。そうすることで技を練習してたのさ。3年前はまだまだだったが、地球連合王国軍に移ってからは国連軍時代より自由に動けるようになってね。総司令官自らVDで出撃して、実戦で鍛えてようやくここまで上達できた』



 あの日々に、そんなことを……!

 なんて執念、流石さすがのロボット愛!



『君はアーカディアンを通じて反射神経と操縦技術の両方を超人レベルに磨いただろ? でも以前は軍で鍛えてる俺と違って実機を乗りこなす体力がなかった。お互い、ようやくパイロットととして完成した訳だ。いやぁよかった! おかげでこうして戦える!!』


「何でそこまで僕と!」


『そりゃ俺だってさ! 1に楽しむ、2に腕を磨くでプレイしてたから勝敗にはこだわらなかったが、中位でくすぶってんのは悔しかったさ! 遥か高みの領域で戦う上位陣がうらやましかった、特に君が!』



 ガガガッ!



『君はどんなプレイヤーより輝いていた、君こそアーカディアンの申し子だ。そんな君と最高のバトルをしたい、君と渡り合える腕が欲しいと願っていた。それがようやく叶ったんだ、しかもゲームではなく実戦で! こんなに嬉しいことはない!!』


「それは光栄だね……!」



 蔵人クロードは強くなったとつば姉から聞いていたが、まさかここまでとは。ゾーンの集中力で予測する膨大な攻防パターンの中に勝機がだせない。


 悠仁ユージンと戦った時と同じ。

 いや、悠仁ユージン以上に強い。


 あの時はつば姉に助けられなかったら死んでいた。今はつば姉もカグヤも地球軍相手に忙しく助けは期待できない。自分で何とかするしかない──最高だ!


 ありがとう蔵人クロード、あの日の敗北を乗り越える機会をくれて。



「お礼も兼ねてブッ飛ばす!!」

『動きが鋭く!? だがッ!!』



 ガガガッ!



 グイッ──両操縦桿を下に少しだけ倒して機体を下降、ヘラクリーズからの銃撃が頭上のすぐ側を通りすぎる。動きを小さくけることでこちらの照準はほとんどズレていない。右手の極光銃ビームライフルの弾道予告線がヘラクリーズの胸に──ふれた!



 ドキューン ドカァン!



「やったか!?」



 ビームが直撃して爆発した……にしては、爆発が起こるのが一瞬早かったような。それに何か違和感が──!?



「くッ!」



 ガガガガガガッ!!



 らせた機体の前を、銃弾の嵐が通りすぎる。爆炎の向こうから飛んできた! 蔵人クロード短機関銃サブマシンガン2丁から撃った弾同士を機体のすぐ前でぶつけて爆発させて、その燃焼ガスでビームを防いだのか。蒸気の〝粒子ビームは減衰するが個体は素通しする〟性質を活かし、やられたと見せかけて爆炎の陰から撃ってきた!



『まだだぜ!!』

「しまった!!」



 回避のために体勢を崩した隙に背後に回り込まれた。すぐにも撃ってくる。回避も、振り返って牽制するのも間に合わない──



『もらったッ!』

「まだまだァ!」



 カカッ──左右のパッドを弾いてレオニードの両腕を背後に向ける! 目で見なくても弾道予告線の向きは手の内の感覚で、敵機の位置は気配でわかる!



 ドキューン!

 ドキューン!



『うおわッ、あぶねぇッ!! 今の何!? よく試す気になるな!』


「それはこっちの台詞セリフだ!!」


『あはははは! 楽しいね! でもまだヌルい! その機体の最も強力な攻撃は極光銃ビームライフル6門に熱核極光砲アトミックビームキャノンを加えた7門一斉射だってわかってるだろ? それを撃たない!!』


「それやったら高確率でアンタを殺しちまうからだよ! 外した時に流れ弾が敵味方を殺す確率も高すぎる!!」


『やれやれ……では、こうしようか!』



 ヘラクリーズの両手の短機関銃サブマシンガンから伸びていた弾道警告線が消えた? 代わりにその胸の獅子の口から警告線が現れる、その先には友軍が──


 まさか!?



『早く俺をとさないと、お仲間やコロニーを撃っちまうぞ!』


「やめろォ!」



 ドキューン!

 ドキューン!



 放ったビームがひらりと回避される。

 それでも熱核極光砲アトミックビームキャノンは撃たれない。

 どういうことだ……?



『場所を変えよう!!』

「は!? ちょっ──」



 ヘラクリーズがどんどん、戦場から離れていく!? 熱核極光砲アトミックビームキャノンを撃つっていうのは僕を誘い出すための脅しか! そうとわかっていても、放置したら本当に撃たれかねない。ついていくしかない!



「何なんだ一体!」



 引き離されないよう全速で。

 僕も、戦闘宙域を離脱した。




 ◆◇◆◇◆




 ゴォォォォ……



 引力に囚われた機体が地面に激突しないよう、推進器スラスターを足下へと噴射して減速しながらゆっくり降下する。みんなが戦うL1北ハロー軌道は今や頭上、さらにその遥か向こうに地球が半月状に輝いている。眼下には、日の光を白く照らし返す岩山と砂だらけの──



 月面。



 地球から見上げた時、月のほぼ中心に位置するプトレマイオスクレーター。直径153kmの環状の山に囲まれた平らな盆地の中心へ。地表がぐんぐん迫ってきて──



 ストッ



 オーラム=レオニードの両足が月の砂を踏んだ。静止すると、コクピットの中で月の重力を改めて感じる。地球に比べてわずかな、1/6G……この感覚、昔タカマガハラ要塞に囚われた時以来だ。


 月……ルナリア王国が起こった、始まりの場所。この低重力に体をむしばまれる暮らしを送っていたルナリアンは、独立戦争で獲得したスペースコロニーへ移住し、もうここにはいない。


 アーカディアンでは何度も月面ステージで戦ったし、アバターが暮らす地底都市メガロポリスも月にある設定だった。でも、本物に来るのは初めてだ。


 今頃、来ることになるなんてな。


 前方、少し遠くでヘラクリーズは先に着陸している。攻撃してくる様子はない──! ヘラクリーズから個人間秘匿通信プライベートチャンネル



「何、内緒話?」


『ああ。君に本気を出してもらうためにはどうしたらいいか考えた。それで、君を怒らせることにしたよ。どころじゃなく、心から俺を殺したいと思ってくれるくらいね』


「バトル漫画のかたきやくか……」


『真実を打ち明けよう。俺が全ての黒幕だ』



 ……は?



「地球連合王国を裏から動かしてきたことなら聞いてるけど」

『そのずっと前から。地球と月の戦争を起こしたのは、俺さ』



 ゾッ──



 と寒気がして。

 体が、震えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る