第52話 オーラムvsオーラム
僕のオーラム=レオニードの
ダンッ!
グイッ!
左ペダルを蹴り込んでレオニードを右へ滑らせ! ながら右操縦桿を押し出すことで右半身を前に出してカーブ、ヘラクリーズの背後へ回り込んで剣を横薙ぎに一閃!
『ヘラクリーッズ!!』
なッ!?
前傾して紙一重で避けられた──
この気配、
飛び退き、振り返るヘラクリーズの姿が変わっていく。
顔の両眼をバイザーが覆う。
胸の獅子の双眸が赤く輝き出す。
肩と
これは──
「イクスモード! やっぱりそっちにも!」
『そりゃ、このヘラクリーズはルナリアの
「そういう……!」
『アキラ、ラスボスを速攻で
ボボボッ!!
『待って、わたしの話を聞いて!!』
『ごめん
『イエス! ユア マジェスティ!!』
『任せな!
カグヤはつば姉を気遣いながらも、自分の臣下につば姉の臣下と戦うよう命令した。両軍が接近し、無数の弾道警告線が
会戦が始まった!
『ッ、ぐっ、うああああッ!!』
つば姉が泣いてる……!
よくもオレの嫁を……!
「つば姉!!」
『アキ、ラ?』
「まだ終わりじゃないよ!!」
『ッ…………ああ! わたしも彼等と戦う! コロニーの人々を守るために! 戦いながら、あきらめずに彼等を説得し続ける!!』
「その調子!
『ええ、また!
『またあとで! ああ、やろうカグヤ!!』
『話は終わったかい?』
「ああ、行くよ
両軍の前衛同士がぶつかり、たちまち混戦となった。
その最前線で僕と
◇◇◇◇◇
そして今、つば姉まで泣かせた。
僕の愛する女性を2人とも──
◇◇◇◇◇
「僕、少し怒ってるよ!
バヂィィィィッ!!
怒気を込めて振るった
強い……!
『怒ってんならコクピットを
「断る!」
確かにそのせいで攻撃の選択肢が狭められている。
ギリギリの戦いでこの負担は重い、それでも──
「友達を殺すのは二度とゴメンだ!!」
『この
バァンッ!!
大上段から振り下ろされた
グイッ──ガガガガガガッ!
両操縦桿を引いて機体を下がらせた直後、上から降ってきた6発の弾丸が目の前を通りすぎた。ヘラクリーズが武器を持ち替えた、
『今度は撃ち合いだ!』
「アンタが仕切るな!」
使用武器変更、左右とも
ドキューン! ガガガッ!
ドキューン! ガガガッ!
互いに相手の死角、真下や背面を取るよう飛び回りながら、機を見て撃ち合い、避け合う
ガガガッ!
ヘラクリーズの銃撃を回避! するのも大変で、攻め切れない!
この弾道警告線の動き!
以前の
VDの射撃は本来、自動照準でするものだ。親指でパッドをずらすことによる手動照準を使うのは、自機は静止してじっくり敵機を狙撃する時くらい。互いに高速で動き回る中で手動で狙いを正確につけるのはあまりに困難で、それができるのはアーカディアンプレイヤーの中でも僕達、一部の上位ランカーに限られた。その領域に今の
3年前は中位ランカーだったのに!
「3年でここまで上達を……! それとも昔は力を隠してたの!?」
『両方さ』
「え!?」
『長年ロボットを操縦するのが夢だった俺はダイゴと共にVD開発を始め、すぐ試作機で他のテスターと模擬戦をした。誰も俺に勝てなかった。だが俺は操縦が上手い訳じゃなかった』
ドキューン!
ガガガッ!
「どういうこと!?」
『第3次世界大戦で何度も死線を
「それって──」
【
【俺の動体視力じゃ、ギア2以上にすると反応が追いつかなくてかえって戦いづらいんだ。自分にあった速度域でやるのが一番さ】
【ごめん! 僕、無神経なことを──】
【ははは! いいって、気にしないで】
「──アレ嘘だったの!?」
ドキューン!
『っと! ああ、機体速度がギア1なら、他の奴のギア4と戦うのは
あの日々に、そんなことを……!
なんて執念、
『君はアーカディアンを通じて反射神経と操縦技術の両方を超人レベルに磨いただろ? でも以前は軍で鍛えてる俺と違って実機を乗りこなす体力がなかった。お互い、ようやくパイロットととして完成した訳だ。いやぁよかった! おかげでこうして戦える!!』
「何でそこまで僕と!」
『そりゃ俺だってさ! 1に楽しむ、2に腕を磨くでプレイしてたから勝敗にはこだわらなかったが、中位で
ガガガッ!
『君はどんなプレイヤーより輝いていた、君こそアーカディアンの申し子だ。そんな君と最高のバトルをしたい、君と渡り合える腕が欲しいと願っていた。それがようやく叶ったんだ、しかもゲームではなく実戦で! こんなに嬉しいことはない!!』
「それは光栄だね……!」
いや、
あの時はつば姉に助けられなかったら死んでいた。今はつば姉もカグヤも地球軍相手に忙しく助けは期待できない。自分で何とかするしかない──最高だ!
ありがとう
「お礼も兼ねてブッ飛ばす!!」
『動きが鋭く!? だがッ!!』
ガガガッ!
グイッ──両操縦桿を下に少しだけ倒して機体を下降、ヘラクリーズからの銃撃が頭上のすぐ側を通りすぎる。動きを小さく
ドキューン ドカァン!
「やったか!?」
ビームが直撃して爆発した……にしては、爆発が起こるのが一瞬早かったような。それに何か違和感が──!?
「くッ!」
ガガガガガガッ!!
『まだだぜ!!』
「しまった!!」
回避のために体勢を崩した隙に背後に回り込まれた。すぐにも撃ってくる。回避も、振り返って牽制するのも間に合わない──
『もらったッ!』
「まだまだァ!」
カカッ──左右のパッドを弾いてレオニードの両腕を背後に向ける! 目で見なくても弾道予告線の向きは手の内の感覚で、敵機の位置は気配でわかる!
ドキューン!
ドキューン!
『うおわッ、あぶねぇッ!! 今の何!? よく試す気になるな!』
「それはこっちの
『あはははは! 楽しいね! でもまだ
「それやったら高確率でアンタを殺しちまうからだよ! 外した時に流れ弾が敵味方を殺す確率も高すぎる!!」
『やれやれ……では、こうしようか!』
ヘラクリーズの両手の
まさか!?
『早く俺を
「やめろォ!」
ドキューン!
ドキューン!
放ったビームがひらりと回避される。
それでも
どういうことだ……?
『場所を変えよう!!』
「は!? ちょっ──」
ヘラクリーズがどんどん、戦場から離れていく!?
「何なんだ一体!」
引き離されないよう全速で。
僕も、戦闘宙域を離脱した。
◆◇◆◇◆
ゴォォォォ……
引力に囚われた機体が地面に激突しないよう、
月面。
地球から見上げた時、月のほぼ中心に位置するプトレマイオスクレーター。直径153kmの環状の山に囲まれた平らな盆地の中心へ。地表がぐんぐん迫ってきて──
ストッ
オーラム=レオニードの両足が月の砂を踏んだ。静止すると、コクピットの中で月の重力を改めて感じる。地球に比べてわずかな、1/6G……この感覚、昔
月……ルナリア王国が起こった、始まりの場所。この低重力に体を
アーカディアンでは何度も月面ステージで戦ったし、アバターが暮らす地底都市メガロポリスも月にある設定だった。でも、本物に来るのは初めてだ。
今頃、来ることになるなんてな。
前方、少し遠くでヘラクリーズは先に着陸している。攻撃してくる様子はない──! ヘラクリーズから
「何、内緒話?」
『ああ。君に本気を出してもらうためにはどうしたらいいか考えた。それで、君を怒らせることにしたよ。少しどころじゃなく、心から俺を殺したいと思ってくれるくらい大いにね』
「バトル漫画の
『真実を打ち明けよう。俺が全ての黒幕だ』
……は?
「地球連合王国を裏から動かしてきたことなら聞いてるけど」
『そのずっと前から。地球と月の戦争を起こしたのは、俺さ』
ゾッ──
と寒気がして。
体が、震えた。
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