第5話 魔王参上

解散になってから数時間が経過し、周りも真っ暗になっており、街灯がポツポツと付いている。 その中で、健也は暗闇の道を歩いていた。 右手にはコンビニの袋を持っていた。

「いい物手に入った」

と、顔がにやけた状態で独り言を呟く。 そのにやにやした顔は家に着くまで続き、家に帰って部屋に着いた途端、まるで猛獣のように袋を破り捨てる。

袋から出てきたのは一冊の本だった。

その本に健也は目を輝かせながら見る。

「今日は色々とあったが、やっと買いに行けた! 魔女看板の三巻! このマンガはおもしろいから目を付けてたんだよ! くぅ〜! 楽しみだ!」

健也は本を読もうと思った時、部屋の窓から何かの音が聞こえる。 コンコンと音が鳴り、健也は窓を見た。

そこにはペルが嘴で窓を軽く叩いていたのだ。

健也はそれに気付き窓を開ける。

「そんな嫌そうな顔するなよ〜」

健也は自分でも分かるくらいに嫌な顔をしているのは分かっていた。

幸せな時間を妨害されたからだ。

「大丈夫。 少し話をしたら帰るから」

「で? 用件は?」

「明日の放課後の時間を少しくれるかい?」

「それはいいが、何をするんだ?」

「会わせたい人がいるんだ」

「人?」

「そう。 人。 ん? 人と言っていいのかな? まぁ会わせたいのがいるから明日の時間空けておいてくれ。 明美にももう言ってあるからさ」

「分かった」

健也が返事を出すと、「頼むね〜」 と言いながら羽を羽ばたいて空を飛んで行った。

ペルが飛んで行くのを見て、健也はこう言った。

「あいつ、飛べるんだ」



次の日の放課後。

健也と明美はペルに言われた通り、時間を空けた。

ペルは待ってたぜと言わんばかりの顔をしており、自慢げに話し出す。

「おう! 来たか! じゃ、移動しようか」

「待って! 会わせたい人って誰なの?」

明美の疑問に健也も頷く。 会わせたいというのだからこちらの事情を知っている者であろう。 こうまでして会わせたい人とは誰なのかという疑問が出る。

ペルは二人の言葉にニヤリと笑い、

「会ってからのお楽しみだ」

そう言って、ペルの案内が始まった。

二人はペルの指示に従い、目的地の場所へ向かう。

そこで着いた所が……。

「ここ?」

明美は疑問を持ちながらその場所を見る。

「そうだぜ。 ここにいるから入ろうぜ」

「入ろうぜって……。 ここってどう見ても……」

着いたのはゲームセンターであった。

二人はペルの言葉に疑問を抱きながら中に入る。

すると、入口のUFOキャッチャーでぬいぐるみを一生懸命取ろうとしている人がいた。

そして、その人はクマのぬいぐるみを見事に手に入れ満足そうな顔をしている。

ペルは明美のバッグから飛び出し、その人に近づく。

「取れましたか?」

「おお! 来てたのか! いい物が取れたわ」

「では、お二方をお呼びいたしましたので御挨拶を宜しくお願い致します」

その人は二人に近付いて一礼した。

「待っておったぞ。 私は魔王だ」

そう言って、頭を上げた。

顔には複数の生々しい切り傷に額には大きな傷が鼻にかけてまで刻まれていた。

その男の挨拶に二人は困ったような顔をして、

「あなたが魔王?」

明美が聞く。

「いかにも。 私が魔王だ。 どうだ! 分かるであろう?」

魔王と自称している人物は自信満々に言ってくる。 しかし、二人は疑問しか残らず、顔は困った顔のままである。

そんな二人を見て、

「証拠を見せようではないか! 外に行くぞ!」

自称魔王はクマのぬいぐるみを持ちながら、外へと向かった。

二人も後をついて行く。

ゲームセンターの入り口から出ると、先程までの見慣れた景色が全くなくなり、未知の街に出ていたのだ。

「なんだ! これ!?」

健也は驚きを隠せなかった。

隣にいる明美を見たが、明美も何が何だか分からないという様子で目を丸くしている。

「ここへ呼ばれるとは」

ただ、一匹のアヒルは冷静に言う。

「ここ!? どこなの!?」

明美は髪を取り乱しながらペルに問いかける。

「前に説明しただろ? 魔王様は入口にゲートを設置していて、俺達は魔界にやって来たんだよ」

「じゃあここが……魔界?」

「そうだ」

二人は再び目の前に入る景色を見た。

そこには太陽があり、街で賑わってる者がおり、綺麗な建物が建てられていたのだ。

「魔界っていうから恐ろしい所と考えていたのに」

「基本はお前らが生活している所とあまり変わらないぞ。 大きな違いがあると言ったらこっちには魔法を使える者がいるという一点かな」

ペルは説明を終えると、

「魔王様に呼ばれてるんだろ? 早く会いに行こうぜ。 魔王様も待っているし。 奥に見える立派な城に魔王様がいるから」

「お、おう」

二人は周りの景色を見ながら奥に見える城を目指して歩いて行った。

周りに見えるのは、二足歩行の獣が野菜を売っていたり、角が生えた者が皿を売っていたりと変わった光景だった。

そういう光景を見ながら、二人は城に着いた。 城の前では二足歩行の牛が鎧を着て門番をしている。

ペルは二人の前に飛び出るようにカバンから出てきて、

「通してくれ。 魔王様の使いだ」

「これはペル様! ハッ! どうぞお通り下さい!」

牛は道をあけ、二人に通り易くする。

二人は不安を前にしながらも、城の中に入っていった。

ペルが一番前に歩き、その後ろに二人は横並びで歩く。 幸い城の中はとても広く、二人が横並びに歩いても全く邪魔にならない広さだった。

「この城は変わらないなぁ」

ペルはそう呟きながら、城の道についての説明をしながら前を歩いて行く。

明美はへぇ〜と言いながらペルの話を聞きながら歩いて行く。

健也も同じような反応をしながら歩いていた。

「着いた」

ペルがそう言うと、二人は立ち止まった。

目の前には大扉が待ち構えている。

健也が開けようと前に行ったが、大扉は勝手に開き、こっちに来いと誘っているかのようだった。

そこを通ると、玉座には魔王らしき人が座っている。

「ようこそ! 我が城へ!」

そこに座っていたのは、先程クマのぬいぐるみを持っていた男だった。

「どうだね? これで信じてもらえたかね?」

魔王は二人に向かって話した。

「どうしてここに連れてきたんだ?」

健也は魔王に向かって疑問を投げた、

魔王はその言葉に頷き、

「ペルが選んだ者達の顔を一度見てみたいと思ってここに呼んだのだ。 どうだね、魔法は使えているかい?」

二人は魔法については頷き、答えを示す。

そこで、ペルが割り込んだ。

「魔王様。 私が魔法を与えたのはこちらの少女だけでございます。 少年の方は独学で魔法を使えていました」

「なんと!?」

魔王は驚く。

「二人共、名はなんと言う?」

「私は橋川 明美」

「俺は方丈 健也」

「うむ。 私は見ての通り魔王だ。 ペルが選んだ者ならば安心出来る。 そこでだ。 一つお願いがあるのだがいいかね?」

「何でしょうか?」

明美が聞くと、魔王は口を開けてこう言った。

「私と手合わせしてくれないだろうか」

「手合わせって勝負するってことかしら?」

「そうだ。 最近は体が鈍ってて、動きたいと思っておったのだ。 どうだ。 やってくれるか?」

「やりましょう」

明美は答えた。

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