第2話 能力

放課後の教室。

そこにいるのは方丈だけで、周りには誰も居なかった。

方丈は椅子に座って待っている。 昨日のことについて聞きたくて、明美を待っているのだ。

教室のドアが静かに音を鳴らす。 方丈はドアの方を向き、誰が来たのかを確認した。

そこには、明美がいた。 明美が真っ直ぐに方丈に向かい、

「お待たせ」

「では、早速本題に入っていいかな?」

その言葉に、明美は周りを確認して、

「屋上で話そう。 ここに人が来るかもしれないし」

「分かった」

そして、二人は屋上に向かった。 屋上に向かうまで二人は無言で、何も会話をしなかった。 二人共、昨日の話から頭を離れて無かったからだ。 どう会話を持ち出したらいいのか分からなかったのだ。

屋上に着き、夕日が差し込む。

その夕日は眩しくて、二人の影を作るくらいだ。

「では話を始めましょうか」

明美は開口一番に本題の話を始めた。

「私と手を組んで、ここを平和にしない?」

方丈はうーんと唸った。

「悪い話ではないと思うがな」

カバンから飛び出す様にペルが出て来て、方丈に話す。

「こっちは魔族の全滅とかそんな物騒な事は考えていない。 あくまで悪さをしたらとっちめるって考え方でいいぜ。 それにお前が魔力を持ってるのはもうバレてるしな」

「俺は魔力は無いと思うが?」

「魔力を持って無かったら俺を見ることは出来ないぜ。 じゃあなぜ俺が見えてる?」

方丈の言葉が詰まる。

「もう分かっていることよ。 あなたは魔力を持っている。 そして、使うこともできる。 嘘は良くないわ。 しかも、人質だった魔族を助けたのは一度や二度ではないでしょう? だってあなたは驚きもせず、魔石も受け取っているし」

方丈は無言でカバンから赤い石を取り出す。

「そう。 それよ。 あなたがそれを受け取ることは関係者と分かっているの」

方丈はまじまじと魔石と呼ばれた赤い石を覗く様に見ている。

方丈は少し黙った後、提案を思いついたかの様に話す。

「そうだ。 これを賭けて勝負をしないか?」

「勝負?」

明美は方丈の言葉に質問で返す。

「そう。 勝負だよ。 もし、俺が勝ったらこの話は無かったことにする。 で、負けたらこの魔石をあげる。 どうだ。 するか?」

方丈の提案に明美はペルを見たが、ペルは溜息をつき、

「お互い譲らないみたいだし、それでいいじゃないか。 約束は守れよ」

「もちろんだ」

「じゃあ、二人とも俺から離れてくれ」

そう、ペルが言った後、方丈は入口近くまで離れて、明美は屋上の奥の方に離れた。

ペルがそれを見て、

「よし! その距離でいいぞ。 我、結界魔法を生ずる!!」

ペルが叫ぶと、不思議な感覚に襲われた。

自分がそこにいるのは分かっているのに、何か違和感を感じている。 体は五体満足で問題もない。 しかし、違和感がある。

「二人共、体に違和感は無いか?」

ペルの声が響く。

「私は大丈夫」

明美はペルに返事を返す。

「方丈はどうだ?」

ペルは方丈に聞く。

「少し違和感がある」

「体は動くか?」

「体は問題なく動ける」

「じゃあ、問題なしだな!」

「え!? いや! 聞いてた!?」

ペルの答えに方丈は慌てて問い返す。

「今から説明するから。 今は二人共、俺の結界の中に入って貰っている。 多少体に違和感はあるかもしれんが我慢してくれ。 この結界内で二人に戦ってもらう。 勝敗が決まったら、俺が止める。 周りにはここで行なっていることは全く見えないから派手にドンパチかましてもいいぞ! 何か質問は?」

「魔法を使っても大丈夫? 方丈君が手加減できないようにしたいから」

「おう、大丈夫だぞ。 お互い本気でやっちまいな!」

「分かった。 本気で行く」

少しの沈黙……。

お互いに動きを見せずに、ただ確認し合うように二人は見ていた。

だが、その沈黙はすぐに破られる。

明美は両手に弓矢を召喚しており、方丈に目掛けて弓を放った。

その弓を見て、方丈は誰にも聞こえないように舌打ちした。

「召喚……」

方丈がそう呟くと、腕に光が集まる。

そして、方丈は飛んでくる弓を弾いた。 その弾いた音はまるで金属音が重なり合うような音を鳴らし、普通の腕ではあり得ない音を発した。

方丈の両腕には籠手が付けられていた。 その籠手は青い色を発しており、方丈の腕を守るように召喚されていた。「……そんな装備なんだ」

「こんな装備だがとっても役に立つんだぜ。 こんなふうにな!」

方丈が言い終わると同時に走り出した。 方丈を捉えようと明美は弓を向けようとした。 しかし、その場に方丈の姿がなく、

「いない!?」

「ここだよ」

方丈は既に明美の懐まで入り込んでいた。 方丈は拳を振り上げ、明美を狙おうとするが、明美は咄嗟に腕を上げて方丈の攻撃を防いだ。 しかし、威力があったため、少し浮いたのだ。 防いだ腕は痺れており、それだけで彼の拳の威力が分かったのだ。

「逃がさん!」

方丈はそう言って、すぐさま追い討ちをかけようと拳を突き出す。

拳は明美の腹へと迫って行く。 その拳は

その貫いた拳からはゼリーのような感触で、とてもそこに肉体があったとは思えない物であった。 前を見ると、そこには明美の姿は見当たらず、スライムらしき物体が方丈の拳を捕まえている。

「捕まえた」

方丈の後ろから声が聞こえる。 方丈が振り向こうと体を動かそうとするが、拳がスライムから離れようとせず、右腕が完全に固定された状態にされていた。

必死にもがくがスライムは離れなかった。

「これで動けないわね」

「何言ってるんだ? まだ勝負はついていないだろ?」

「今、ついたわ」

方丈が首の横から何かが伸びているのに気付く。

それはまるで光が集まったかのような白い剣であった。 その剣は方丈が首のすぐそばまであり、下手に動いたら切れる距離である。

方丈は手立て無しと判断したのか、

「参った」

「じゃあ、約束通り魔石をもらうね」

「ああ、渡すからこのスライムみたいなのをどうにかしてくれないか」

「分かったわ」

明美は魔法を全て解除し、ペルに叫んだ。

「勝負ついたわよ!」

「あいよ!」

ペルは明美に返事を返し、結界を解除する。

二人は向き合うように立っている。 そして、方丈はポケットから魔石を取り出した。

明美は魔石を受け取り、

「では勝負に勝ったから話も聞いてもらうわね。 いいよね?」

「あぁ、負けてしまったんだしな。 で、手を組むってどういう事だ?」

「協力して欲しいの。 この魔石を集めるのを」

明美は魔石を見せ付けるようにしながら話している。

「今から時間ある?」

「暇だったから問題ない」

方丈は明美の言葉に返事を返す。

「そういえば、話をするのに方丈君って言われるのもあれだから、健也けんやって呼んでくれ」

「じゃあ、私のことも明美って呼んでね」

「分かった」

そう言って、健也は手を差し伸べた。

明美はその手を右手で掴み、握手をした。

「じゃあ、場所を変えて話をしましょうか」

明美の言葉に健也は頷いた。

健也はこの話はきっと長くなるだろうなと思いながら、話を聞く事にした。


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