魔法少女さんと護衛くん

トマトも柄

第1話 魔法少女

暗闇の路地で男が一人でいた。 路地の周りには男以外に人の姿は見当たらず、静まり返っていた。

男は暗闇の中で、ポケットから何かを取り出した。 その取り出した物は、赤い石であった。

「ヒッヒ! 遂に手に入れたぞ!」

その赤い石を見ながら、笑顔を零す。

「これで! これで俺も!」

男は笑いながら、石を舐め回す様に見ていると、何かが風をきる様な音を発した。

そして、鈍い音を出し、男は悲鳴を上げた。

「痛い! 痛いよう!!」

男の右腕には矢が刺さっていたのだ。

その矢は、白く輝いており、光を集めたかの様に光っていたのだ。

男は痛みのあまり、石を手放してしまう。

慌てて、左手で石を拾い、矢の飛んできた方向に向かい、

「誰だ!?」

叫んだが、返事は返って来ない。

返事の代わりと言わんばかりに白い矢が男に向かって、飛んで来た。

男は回避をしようとするが、反応に間に合わず、左腕に矢が刺さってしまう。

男は痛みを堪え、左手に持っている石を手放さず、矢の飛んで来た方向を睨んだ。

ただ、睨んだ時に、目と鼻の先に矢が飛んでおり、男の頭に矢は刺さった。

男は仰向けに倒れ、男は砂に変わっていく。

そして、男の全身は砂に変わり、男の持っていた石は地面に落ちていた。

矢を放った者は、砂のそばに近付き、石を拾った。

そして、砂に向かってこう言った。

「私は魔法少女よ」

その言葉の後に返って来た音は、風の音しかなかった。



※※※



ある教室、少女は静かに読書をしていた。 長い髪は読書の邪魔にならない様に束ねており、読書に集中出来る体勢で読んでいた。

少女が本を読んでいると、本に影が出来ていく。

その影は本を覆って、文字を見えなくした。

少女は影が出来た方向に向いた。

そこには、少年が立っていた。

「どうしたの?」

「提出するノートを持って来た」

少年の手にはノートがあり、受け取ってくれと言わんばかりに、机に置く。

少女は本を閉じ、机に置いたノートを受け取った。

「ありがとう。 これで全員分のノートが揃ったわ。 先生に提出してくるね」

「ノート、俺が持って行こうか?」

「大丈夫よ。 私が先生に頼まれたから私が行くわ。 ありがとう。 方丈ほうじょう君」

「分かった」

方丈と呼ばれた少年は頷き、教室から出て行った。

少女は方丈を見送り、見えなくなるまで椅子に座っていた。

そして、周りに誰もいないのを確認してから、

「もういいわよ」

その言葉を待っていたかの様に、少女のカバンからアヒルが出て来た。

「ふぃ〜! やっと出れた! さて、魔力の調査をしますか。 明美あけみさん」

「せめて、橋川はしかわって呼んで欲しいな」

少女はアヒルを睨み、嫌そうな顔で答える。

「分かったよ。 橋川 明美って名前なのだからどっちでもいいじゃないか」

明美と呼ばれた少女は、

「分かりました。 明美でいいです」

と、機嫌悪く答える。

「では調べてみますか!」

アヒルはノートに近づき、ノートの匂いを嗅いでいる。

「ペル、何か分かった?」

ペルと呼ばれたアヒルは明美に顔を向き、

「これはあるぜ。 魔力の匂いが伝わってくる。 何か魔法を持っているな」

「どんな?」

「それは分からねぇ。 ただ、魔法を使っているのは間違いないな。 この中に何か入っていないか?」

ペルに言われて、明美はノートの中身を調べ始める。

ノートを調べると、一枚のメモ用紙が挟まっていた。

明美はそのメモ用紙をペルに見せると、

「間違いないな。 そのメモ用紙から魔力が匂ってくる。 それは魔法で書かれているな」

「読めるの?」

「読めるから言っているんだ。 じゃあ、読むぞ」

ペルは一呼吸終えてから、メモ用紙を読んでいく。

明美には只の白紙のメモ用紙にしか見えないが、ペルにとっては文字の書いたメモ用紙とのことだ。

その文字は、

「今日、夕刻にてビルの廃墟に来い。 そこで待っている。 地図も入れておく。 必ず一人で来い。 さもないと、人質の命は無い」

ペルの読み上げた文章に、明美は椅子から立ち上がり、慌てる様に教室から出ようとする。

「待て! 今行ってももう遅いぞ!」

ペルは教室から出ようとする明美を呼び止め、明美をその場に留ませる。

「けれど、人質がいるのでしょ! 助けなきゃ!」

「落ち着け。 なぜ俺がこれを読んだと思う?」

「そんな謎掛けしてる場合じゃないでしょ!」

明美は苛立ちを見せながらペルに言う。

すると、ペルは羽を嘴に当てて、

「魔力の匂いは覚えた。 その方丈とかいったっけ? 会いに行くぞ」

「追えるの?」

「言ったろ? 匂いを覚えたって」



明美とペルは歩いて、ビルの廃墟に向かっている。 歩いているのは、ペルの提案で怪しまれないように慎重に行こうとのことである。

ペルはカバンから嘴だけを出した状態で、明美にグワグワ言いながら道を指示している。 明美はその指示に従い、廃墟に向かう。

「ここだ」

ペルは嘴で目的地を指す。 そこは人通りも無く古びたビルが建っている。 明美は目的地のビルに入って行く。

そこは何もなく、古びた支柱がむき出しになっており、生活感が全くなかった。

明美が奥へ入って行くと、荒い息が聞こえてくる。 荒い息は奥へ進むたびにはっきりと聞こえてくる。 明美は荒い息の聞こえる方に進み、その音の元へ辿り着いた。

そこは方丈の姿があった。 方丈の周りには複数の男が倒れており、戦闘が終わった後だと言うのが見て分かる程だ。

方丈は気配に気付いたのか、明美の方に振り向いた。 方丈は目を見開き、明美を見た。

「橋川さん!?」

方丈は意外な人物の登場に驚きを隠せないでいた。

「これ……あなたがやったの?」

「……」

明美の問いに返ってきたのは沈黙だった。 先程まで激しい戦闘だったのか、方丈は荒い息を吐いている。

明美は方丈に手を差し伸べた。

「私と手を組まない?」

「え?」

「あなたが魔法を使っているのも、魔力を持っているのも分かっているわ。 それで手を組まない?」

「魔法? 魔力? いや何言ってるのか分からないよ! それに橋川さんはどう見ても普通の人ーー」

方丈が言い終わらない内に、明美は光に包まれる。 その光が止むと、明美の左手には白い弦と右手には白い矢を持っていた。

「私は魔法少女よ」

「そういうことさ」

ペルがカバンから身を乗り出し、方丈の前に姿を現わす。

「アヒルが喋った!?」

方丈が驚いて、声を上げる。

だが、ペルは驚く方丈を無視して、人質の捕まっている場所へ向かう。

「敵はもういないよな?」

「あ、ああ……」

ペルの問いに方丈は驚きを隠せず、生返事で答えてしまう。

「もういないよな?」

ペルがもう一度聞く。 はっきり答えろと言わんばかりの強い口調で言った。

「もういない」

強い口調の意味を察したのか、方丈はしっかりした返事で返した。

ペルはその言葉を聞くと、奥に向かって行った。

「奥に人質がいるんだろ。 助けに行こうじゃねぇか」

「そうね。 行きましょう」

明美はペルの言葉に答え、三人で人質のいる場所へ向かった。

奥に入って行くと、縄で縛られている男を見つけた。

三人は縛られている縄をほどき、その者と対面した。

「大丈夫か?」

方丈が聞く。

すると、相手は大丈夫だと証明するように頷いた。

「ありがとうございます」

男はお礼を言った。

その男は見た目は普通の人とそっくりだった。 しかし、一部分が人と明らかに違う部分があり、人ではないことが分かる。 その男は額に角が生えていたのだ。

「角が生えている!?」

明美は驚いた。

「はい。 私は魔族ですので」

男はそう言って、懐から赤い石を取り出した。

「助けて頂いたお礼にこれをお渡しします」

「いや、勝手に来ただけだし。 貰えないよ」

方丈は断ろうとしたが、

「受け取って下さい。 そうでないと気が済みません」

方丈はしぶしぶ男から石を受け取る。

「では私はこれで」

「次からは捕まらないようにな」

男は方丈の言葉に笑顔で示し、その場を去った。

男が去った後、方丈は明美とペルに向き合うように見た。

「さてと、手を組むってどうするんだい?」

「詳しい話は明日の放課後にしましょう。 その石も持って来てね」

そう言って、三人は廃墟を後にした。

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