第7話 目的

「では話を始めようか」

魔王は二人に話を始める。

「話す前に一つだけ聞く。 どんな奴が狙っていると思う?」

「人だと分かっているとこまでなら……だな」

「ならば話が早い。 率直に言おう。 相手は人間だ」

二人はその答えに無言になる。

「しかも、魔力もかなり強いみたいだな」

「けれど、なぜ人が俺達を狙うんだ? 狙うことによる目的があるのだろう?」

健也は魔王に聞く。

「狙いは分からん。 こっちで調べていたが、目的は分からなかった。 分かっているのは魔力を持った人間だ。 それだけだな」

「その魔力を持った人ってどれだけ強いの?」

「少なくとも、先程の私の手合わせのときに出してた魔力はあるな」

「それって相当強いということじゃないか」

健也はがっくりとする。

先程の魔王との手合わせで相手の実力に届いていないということが分かったからだ。

「そこでだ。 ここを使っていいから修行をしないか? お前達は素質がある。 そして、今の行なっているのもやめられても困るからな」

「魔族を倒すことをやめられると困る?」

健也は復唱して尋ねた。

「そうだ。 本当はあちらの世界にはあまり関わらないようにと言っているのだが、それでも関わろうとする者がいるからな。 その為に力をつけてもらいたいのだよ」

「つまり、こっちの世界の警察の役割をしてくれってことか」

「その通りだ。 迂闊に入っては行けないということを力で証明して欲しいのだよ」

その話に二人は頷いた。

明美は頷いた後、

「こちらから質問いいでしょうか?」

と、魔王に聞く。

「うむ。 いいだろう。 何の質問だ?」

「魔石を報酬としてもらう事は可能でしょうか?」

明美の質問に健也はなぜと言わんばかりの顔をしているが、明美は健也を気にせずに続けて言う。

「どうしても助けたい人がいるんです。 その為に魔石が必要なんです」

「うむ。 いいだろう」

魔王は頷いた。

「だが、一つだけ言っておくぞ。 魔法は万能の道具ではない。 助けたい人がどんな状態かは知らないが、何でも治るということは無いということは分かってくれ」

「はい。 分かっております」

魔王は魔石を懐から出し、明美に手渡す。

明美は魔石を受け取り、笑顔を見せる。

「ありがとうございます」

そして、二人は魔王の案内でゲートを出してもらい、魔界から去っていった。

魔王は二人を見届けてる。

その顔は先程までの自信たっぷりな態度はなく、まるで我が子の旅を心配するような顔をしていた。

「明美と健也か。 あの二人はきっと大丈夫だろう。 大丈夫だ。 きっと」

誰も居ない部屋で魔王は独り言を言っていた。

その言葉を何度も呟き、自分自身に言い聞かせた。



二人は現実世界に帰り、元のいたゲームセンターの前に突っ立っている。

「なぜ、魔石が必要なんだ?」

健也は明美に聞いた。

明美はその質問に口を歪ませたが、その重い口を開けて、

「どうしても助けたい人がいるの。 私はその為に魔法少女になったの」

「その話、聞いてもいいかな?」

「……。 いいわ、話をするわね」

二人の会話を聞いていたペルは明美を心配そうに見つめながら、大人しくしている。

「いいのか……。 話しても」

「いいのよ。 目的が何かを知ってもらいたいし、それに健也は私の護衛なんだから、知る権利もあるわ」

明美は心配そうに見ているペルに、私は大丈夫と言わんばかりの笑顔を見せて答えた。

「じゃあ、行きましょうか」

「行くって、どこへ」

「病院よ。 私の助けたい人はそこで眠っているの」

そして、明美は病院の方向に向いて歩いて行く。

健也は明美の後ろをついて行き、病院に向かった。


病院に着くと、明美は受付に話しかけている。

健也は待合室で静かに座って待っていた。

すると、明美は健也に近づき、

「案内するわ。 こっちの病室よ」

明美は健也を引き連れて案内を始めた。

健也は静かに後ろをついて行く。

周りを見ても、リハビリに取り組んでいる者、体調が悪そうな者などが見えている。

「ここよ」

明美は立ち止まり、健也に伝える。

明美は健也に伝えた後で、病室へ入って行く。

明美は、入っていいのか迷っている健也に、

「大丈夫よ。 入って」

と、笑顔で答えた。

その答えに健也は少し体を縮こまりながら入っていく。

病室はとても静かで、聞こえてくるのが外からの声や風の音しか聞こえなかった。

病室で横になっている人は一言も声を出さずに、眠りについている。

その眠りについている人は雰囲気が何となく明美に似ている。

健也はこの方はと聞くと、明美は小さな声で言った。

「私のお母さんよ。 私はね、お母さんを助けたいの」


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