小説の数は世界の数。彼女の世界を広げてくれたものたちに送るモノローグ

一人称で、おそらく成人してから主人公の女性(苗ちゃん)が自分の中学時代に起こった事件を回想している物語です。
事件、と言っても、人が死んだり怪我をしたりするわけではありません。彼女が読んでいた推理小説のようなドラマチックな事件ではないのです。
しかしその事件は少女の心を深く傷つけるもので、ひょっとしたら彼女の心を殺してしまったかもしれないことで、中学生にとってはとても恐ろしいことだったでしょう。
でも彼女の世界はすでに母の作った囲いの外にもずっと広がっていて、彼女を助けてくれるものがたくさんあって――田辺さんだったり工藤さんだったり小説だったり、中でもとりわけ猫おじさんがそれを担ってくれているのですが――それは彼女が少しずつ勝ち取ってきたもので、「母の飼い犬」としてであっても、今日まで一生懸命生きてきた証です。
この日彼女の心を救ってくれたのは猫おじさんですが、彼女の世界は猫おじさんと交流できるほどにはすでに広がっていて、そしてこのあとも続いていったんだろう……と思うとほっこりします。
おとなになって、好きな本をたくさん読めるようになったかな? 猫おじさんはそれを一番望んでくれていると思います。
丁寧な描写でとても読みやすく、多くの方に読んでもらいたい作品です。