7.崩壊

 それは、僕の目の前にいた。

 僕とは似ても似つかないフォルム。

 腰ほどまでしかない体躯。


 ガラスに顔を押し付けて、それは懸命に、外界を見下ろしていた。

 

 「うわぁーーー高いねぇーーー!」

 

 スピーカーに飛び込む、甲高い声。

 データベースに頼るまでもなかった。

 僕はそれが、その生物が何者なのかを、知っていた。


地図観測員マッパー、どうした』


 隊長の声が聞こえる。

 

地図観測員マッパー、応答しろ』


 仲間の声が聞こえる。

 僕は言った。


『人間が』

 

 ほら、そこに。

 指さす先を、誰も見ない。

 

地図観測員マッパー、応答しろ』

地図観測員マッパー、応答しろ』

地図観測員マッパー、応答しろ』


 くりかえすコールが絡みつく。

 違うんです。ほら、そこにいるじゃないですか。

 人間ですよ。僕たちが探していたものです。


 見てくださいよ。ほら、そこに。


「あれ?」


 その子供は言った。


「ねえ……お空から、なにかが落ちてくるよ!」



 


 衝撃。



 崩壊。




 建物が揺れる。亀裂が床をはしり、ひび割れは天井に達する。

 隊長が叫ぶ。その声を轟音がかき消す。形を失った白砂の塊が降って来る。霞む視界。まわる視界。耳元を埋め尽くす警告アラート警告アラート警告アラート

 

 僕は踏み出す。彼はまだ、そこにいる。

 その子はまだ外を見ていた。小さくぷっくりとした人差し指をガラスに押し付けて。なにかを訴えるようにぱくぱくと口を動かしていた。声は聞こえない。


 君は何を見た?

 

 わかっている。話しかけても答えなどないことくらい。

 過去が作り出したまぼろし。建築物の記憶に刻まれた残響。

 期待はしていなかった。

 彼が振り返っても。

 その目が輝き、口元から小さな八重歯がのぞいても。


「お母さん! !」


 そして、足元が消える。

 なにかがかちりとはまる音がして、

 データベースがひとつの言葉をつむぎだす。


===


きみたちもまた、




      残響にすぎない。


===



そして僕は、意識を失う。

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