最終話.砂人たち

 目を覚ましたとき、モニタに映るのは見慣れた二色だった。

 空の青と、砂の白。

 

 身を起こす。身体から砂が、さらさらとこぼれる。

 塔は消えていた。


 あたりは再び、静寂に包まれている。


地図観測員マッパー


 背後からの声に振り向くと、隊長が立っていた。

 片手が消え、頭部の半分が破損している。

 それでも、彼は立っていた。


『地図を』


 その命令に、僕は答えなければならない。

 かつての自分ならば。


『もう、止めましょう』

 

 僕はつぶやく。

 決してその言葉が、届かないことを知りながら。

 

『地図を』


『意味なんて、ないんです』


『地図を』


『この体もまた、砂漠から作られた』


『地図を』


『<復原>なんですよ。我々は』


 それはたぶん、データベースのようなものだった。


 塵禍メイルストロムは、街を飲み込んだ。

 人間ごと。

 生物ごと。

 建物ごと。

 記憶ごと。


『すべては保存されている。これの中に。そしてランダムに<復原>される』


 その中に、きっと調査隊がいたのだろう。

 遠い過去、この白い砂漠にやってきた調査隊。


『失敗したんでしょう。そして砂に取り込まれた。僕たちは、その残響エコーなんです。それも、不完全な』


『地図を』


『止めましょう、隊長。意味なんてないんです。答えなんて出ないんです。僕たちに、本来の目的なんてないんです。僕たちはただ、生前の目的を反射的になぞるだけの、消えれば、次の生物が<復原>されるだけの……』


地図観測員マッパー


 不意に呼びかけられ、僕は息を呑む。

 彼はまっすぐに僕を見て、そして言った。


『泣いているのか』

『……え?』


 ぽたり。

 黒い、小さな点が砂に落ちる。

 頬に手をやろうとして、すでに両手が失われていることに気付く。

 足もだ。


『インシデントA-14を確認。各位、行動を中止せよ』


 乾いた警告アラートが、砂漠に響いた。


『回収隊が来るまでここで待機』


 そう僕に命じて、隊長は歩き出す。

 斜めに身をかしがせて。

 故障した足を引きずって。


 その先に広がる青い空を、僕はただ見つめる。


 止める気はもう、失せていた。

 行けばいい。

 探せばいい。

 無意味な空虚に過ぎなくても。


 この涙は、彼のために流そう。

 

 僕はいつまでも彼を見送る。

 遠ざかるその小さな背中が、陽炎に溶ける。

 



 残ったのは、あのはてのない青と白―――









<砂塵の都>

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砂塵の都 維嶋津 @Shin_Ishima

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