最終話

おまけ「一樹小泉の下世話な話」


「ずっと黙っていても僕の心が苦しいので、この際白状させてもらいます」

「何だ?話の流れからしてロクなことじゃなさそうだが?」

「残念ながらその通りです。どうしましょう、やっぱり止めた方が宜しいでしょうか?」

「宜しいも何も、そこまで話しておいて今更止める流れなんてあるワケないだろうが。いいから話せよ」

「大変申し訳ありません。では」

「どうせハルヒ絡みだろ?」

「はい、仰る通りです。涼宮さんが中学生の時に特殊な力を手に入れ、僕らを含む様々な勢力が涼宮さんを調査研究することになったというのはご承知の通りです」

「長門や朝比奈さんが送り込まれたように、か」

「さて、各勢力が各々の思惑で涼宮さんの研究する中で出てくる疑問の一つに、「涼宮ハルヒの力が失われることはないのか?」というものがあります。何らかの拍子に力を手に入れたのなら、何らかの拍子にその力が失われる可能性もあると考えるのが当然です」

「そりゃそうだ」

「では、可能性を考察する際の常套手段とは何でしょうか?」

「知らん。もったいぶらずにさっさと話せ」

「過去の事例、似たような話と比較することです。野球で言うなら、このピッチャーはこのカウントだとこんなボールを投げてくる傾向がある、このバッターは追い込まれるとこのボールに手を出しやすい、といったものです。この場合なら、人間が超常的な特殊な力を手に入れるケースとはどんな場合があるかを考察し、同様にそれが失われるケースを考察してみるわけです」

「なるほどな」

「古来より、人が神、あるいはそれに類する何かから特殊な力を授かろうとするケースでは、その対象者は乙女である場合が多々あります。何故乙女なのかと言えば、何者の物でもない無垢な心と身体でないと、神にその身を捧げられないということかと考えられます」

「……ほう」

「つまり、涼宮さんが乙女でなくなった場合、その力が突然失われる可能性があるのではないかと、涼宮さんを調査研究する各勢力は考えるわけです。馬鹿馬鹿しい話に聞こえるでしょうが、涼宮さんが力を手に入れた理由が解明できない以上、力を失う理由もまた、あらゆる可能性が無視出来ないんです」

「…………ほぅ」

「故に、もし涼宮さんが乙女でなくなることがあるとすれば、涼宮さんを調査研究する勢力からすれば、様々な意味で一大事です。当然、そのような事態が起こりうると解れば、その動向は関心を集めることになります」

「………………ほぉ」

「もうお解かりかと思いますが、あなたと涼宮さんが初めて共に過ごした夜は、それはそれは多くの関係者の関心の対象になっていたんですよ。大変申し訳ありませんが、僕も涼宮さんの力の関係者として、無関心でいるわけにはいきませんでした」

「……………………ほほぉ」

「ここまで白状してしまった以上隠し事は一切したくないのでお話してしまいますが、一人の人間として、知り合い同士のロマンスの行方に興味を持つ気持ちが皆無だったと言ったら、正直嘘になるでしょう」

「開き直りやがったな……」

「誓って、あなたと涼宮さんのプライバシーに関わるようなことまでは把握していません。長門さんと朝比奈さんも同様でしょう。そこは信じていただきたいし、同様に彼女達を信頼してよいと思います」

「当たり前だ。そこを疑ったら、俺は二度とSOS団に参加できなくなっちまう」

「ありがとうございます。ちなみに、涼宮さんが妊娠した際、子供にもその力が備わるかもしれない、あるいは彼女から子供へ力が受け継がれるかもしれないという推論もありましたが、今のところはどちらのケースも当てはまりません。涼宮さんが依然本人の自覚なく特殊な力を持っているのが現状です」

「理由は未だ解らず、か?」

「その通りです。……以上が僕の告解です。大変下世話な話で、さぞ気分を害されたことでしょう。心より謝罪します」

「……楽になれたか?」

「はい。正直今まであなたにずっと隠しているのが苦しかったので、告白できてすっきりしました」

「お前はすっきりしたかもしれんが、俺の方は、何とも落としどころが見つからない、やっかいな気分だ……」

「ええ、殴られるくらいは覚悟の上です」

「……お前をブン殴るのは簡単だが、それだと、そこでお前を許したことになっちまう気がするからな。あえて何もしないでおくよ」

「これはこれは手厳しい。それが一番堪えますよ」

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