第5話
この気楽な学生生活もあと一年もないのか、何故俺はもっと学生生活を謳歌しなかったのかという後悔と、下手をすると就職出来なくて仕方なく学生生活をもう一年延長することになったらそれはそれで問題であるという恐怖を感じていた、大学四年生の時のことだ。
四月、ハルヒはさっさと内定を勝ち取りやがった。「世界中の不思議な事件や現象を取材し解明し、広く世に知らしめる」という崇高な目的を掲げて毎月出版される、一般人の感覚から言えば「オカルト専門」としか言いようのない雑誌を編集している出版社で、採用予定が無かったはずのところにハルヒは勝手に書類を送りつけ、それに興味を持った社長に面接に招待され、会って5分で意気投合して内定が決まってその後は同じ趣味を持つ社員もまじえて延々と語り明かしたそうだ。
そして、ハルヒに続きなんとか俺も内定を取ることができて安心していた五月、ハルヒの妊娠が解った。
その日のうちに、二人で籍を入れようと決めた。
ハルヒはやけにあっさりと、就職を取りやめて出産後は育児と家事に専念すると言った。話し合い、とりあえずアパートを借りて俺が先に住み、ハルヒが出産し母子の状態がある程度安定したら三人で住むことにした。
突然の妊娠と結婚だったが、親の許可を貰ったり親族や友人への報告をしたり新居を探したり結婚式の準備したり等々、振り返ってみれば色々な出来事があったにも関わらず、二人とも大して動揺せずにいられた気がする。
それはまるで、予め心構えが用意されていたような感覚だったが、それについては、結婚することを報告した際に鶴屋さんと佐々木に言われたことが思い出される。
「あたしは別に驚かなかったさっ。だってキョンくんとハルにゃんは、いずれこうなると思ってたからねっ。きっかけがたまたま早く来ただけさっ」
と鶴屋さんに言われた後で、佐々木からも似たようなことを言われたのがやけに記憶に残っている。
「僕個人の意見としては、俗に言う「でき婚」というやつについて、好ましいことであると定義するのは正直言って難しい。しかし、キミ達の場合に限っては、そうは思わない。何故なら、たとえどんな過程を経たとしても、結局キミ達は当然のようにこの結果に辿り着いたと思うからさ。運命、と呼ぶのは少々大げさかもしれないけど、それに近い感覚だね。だから、運命にあれこれ言うのは、野暮ってものだよ」
なお、谷口からは、九割がたやっかみと己の不幸を嘆いた内容の有難い祝いのお言葉を頂戴した。
学生結婚ということもあり、親族と近しい友人だけのささやかな式だったので、出費は思ったほどはかからなかった。鶴屋さんが知り合いの式場を紹介してくれたのもずいぶん助かった。勿論学生に払いきれるわけもなく、ほとんどは両家の親に借りた。いつになったら返せることやら。
それから、ハルヒが育児と家事に専念することになったので、二人して出版社の社長に断りの挨拶を入れに行ったが、社長さんは確かに変な趣味を持ってはいるようだが、とても感じの良い人だった。
「いずれ子育てがひと段落したら、その時は一緒に雑誌を作ろう。ま、それまでウチがつぶれなかったらの話だけどね。あっはっはっ」
と笑っていた。
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