第3話

 ニラ玉は期待通り美味く、自然と箸が進んだ。

「タイムセールでニラが安かったのよ。で、ニラ玉にしようと思って買ったんだけど、卵を切らしてるのを帰る途中で思い出したの。だけどその時にはハルキが眠くてぐずってたから、買いに戻るのもかわいそうでやめたの」

 で、卵を買って来いってか。

 ま、こんだけ美味いニラ玉が食えるのなら、仕事の帰りにちょっとお遣いするくらい安いもんさ。

「有希に会った?」

「ああ、あいつに会計してもらった」

 長門はウチの近所の、ハルヒも頻繁に買い物に訪れるスーパーの従業員をしている。品物の種類は少ないが値段は中々安い上に家から近く、何より長門が勤めているということで我が家では贔屓にしており、俺が卵を買ってきたのもその店だ。

 長門にスーパーの店員をしている理由を尋ねたところ、曰く、

「不自然にならず頻繁に彼女と接触し、その状態を観察することができるから」

 だそうだ。

 そもそも働く必要もない長門が何故働くのかと言えば、長門の任務を知らないハルヒが「有希、仕事しないで毎日どうしてるのかしら」と心配しないようにする為らしい。無難に大学院生とかやっていればいいんじゃないかと尋ねたが、スーパーの店員の方がより不自然にならず頻繁にハルヒを観察できるんだそうだ。ご苦労なこった。

 ちなみに、ハルヒにはスーパーへの就職理由を「色々な人間を観察したかったから」と説明したらしいが、それを聞いたハルヒは、

「本が好きなのはいいけど、本の世界にばかりいると現実の人間のことが見えなくなっちゃうかもしれないからね。有希、とってもいい心がけだわ」

 と納得したそうである。俺だったらそんな説明ではイマイチ理解しかねると思うのだが、ハルヒの中にある長門像は時々わからない。

 なお、以前混雑時に店に行ったことがあるが、長門のレジ打ちのスピードはやたら速くしかも正確で、他のレジと比べてそこだけ人の流れが明らかに速かった。長門にとってはハルヒ観察の為の仕事だが、店にとっては長門は今や店の運営にかかせない戦力になっているようである。

「あたしも有希に会計してもらったんだけど、ハルキは相変わらず有希がお気に入りみたいね。店をまわってる時は大人しかったのに、レジで有希が見えたらすぐご機嫌になったわ」

 ハルキは妙に長門に懐いている。以前長門が家に来た際、長門は無表情に近い顔でただ抱っこしているだけなのに、ハルキは俺でもめったに見たことのないような満面の笑みを見せたほどだ。ちなみに、長門の方もまんざらではない様子で、その時の写真は俺もハルヒもお気に入りである。

「有希を気に入るなんて、あの子中々人を見るセンスがあると思うわ」

 その意見に関しては、否定する要素が見当たらないな。

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