山野ねこさんが先のレビューで書いている通り、ノンストップ・コメディです。でも、単純に巫山戯たコメディじゃなくて、何本もの人間ドラマが軽妙に織り込まれていて、清々しい読後感を味わえます。
次から次へと奇妙奇天烈な登場人物が前面に出て来て、バスジャックの様相が猫の目の様に目まぐるしく変わります。バスジャックを題材にしたハリウッド映画「スピード」に似た疾走感を感じます。でも、本作品では、何度か休憩所で停車し、用を足した乗客がバスに戻るのです。ねっ! 単なるアクション小説ではないでしょう?
バスジャックの主体となる様々なキャラ達の織り成すハーモニーを是非楽しんでください。
何を言っているか分からないと思うが、これが本作を一言で表した概要だ。
この作品はあらすじだけで恐ろしい引力がある。バスジャックが感染する?魔法使いに霊媒師に爆弾魔って、これちゃんと収束できるの?
……安心してください。作り込まれたバスジャックたちの演出、息をつく間を与えない怒涛の展開、そして爽快すぎる結末が待っています。
文章は言うまでもなく洗練されていて読みやすいです。
クールな文体に滲み出る皮肉なツッコミは他の方のレビューにもある通り伊坂幸太郎さんの小説を思い起こさせられ、高速バスという狭い舞台で個性が強すぎるキャラが織りなすドタバタの伏線回収劇は三谷幸喜さんの脚本を見せられているかのよう。
悪役ばっかりのはずなのに、なぜか最後はこの登場人物たちと一緒に温泉に行きたくなる。本当ですよ?疑うなら読んでみてください。面白いですから。
ちょっと待て。
だから、ちょっと待てってば。
次々と繰り出される超常的な展開に、ツッコミが追い付かない。
ツッコミどころしかないのに、見事な構成がツッコむ隙を与えない。
何だこれ。
飄々とした文章が、しれっと常識を書き換えていく。
振り返ってみれば、最初のバスジャック犯だけが正統派だった。
いっそのこと健気にも可憐にも見えてくるほどだ。
魔法使いやら超人やら幽霊やら、変なのがわらわらと出てくる。
あまりにもさりげなく自己紹介されて、疑問を挟む余地すらない。
嵐に巻き込まれた、というか。
呆気にとられるうちにバスは進み、バスジャック犯が増えていく。
増えると言っても増殖系SFじゃなくて、同じものが増えるより、
バスジャック症候群に感染した患者の相乗効果のほうが凄まじい。
「ノンストップクライムコメディ」というキャッチのとおりで、
犯罪《クライム》と喜劇《コメディ》が掛け合わされると、
こんなわけわからんパワーを発揮するのか、と唖然。
無論、巧緻な執筆テクニックがあればこその面白さだ。
普段のレビューではあらすじの紹介をさせてもらうのだけれど、
(話の雰囲気をほのめからされたら、手に取る人が増えそうだし)
『感染性バスジャック症候群』にあらすじの紹介は不要だろう。
タイトルとキャッチだけで十分で、それ以上は無粋になる。
全員、ふつうじゃない。
一番ふつうじゃないのは誰か、それは明らかだ。
本作を手に取った読者全員の同意を得られると思うけど、
カスイ漁池という人物だ(誉め言葉です)。
本当にお見事なコメディエンターテインメント小説。
するすると読み進められて、爽快な読後感がある。
コメディ系の舞台演劇が好きな人にはたまらないかもしれない。
余談ながら、読み嵌まって味噌汁を焦がした。どうしてくれる。