末期ガンを患う彼女は、高知の海や空や川を愛し、
仕事に忙殺されがちの「僕」に、
美しい風景をもたらしてくれた。
彼女は「風がみえる」人だった。
「命令」「面倒」という冷たい言葉が並ぶ冒頭、
若手医師である語り手に嫌な印象を持ったけれど、
患者である彼女との対話の中に、彼の真摯さと繊細さを見た。
綺麗事の奇跡を描く物語ではなく、
シビアな病の実情を描けばこそ、
エーゲ海とも比肩する高知の海の美しさが映える。
彼女に見えていた風景、彼が気付かされたその美しさに、
私もじかに触れてみたくなった。
痛くて苦しくて魅力的な掌編。
丁寧な筆致で描かれるリアリティが、すごく好き。