感情が軋み、歪み、どうしようもなく捩れる瞬間

 主人公の感情の流れに翻弄される、とても読み応えのある作品だった。
 この物語は、傷つき、歪められた主人公の心が、明確な悪意に反転するその瞬間を描写した物語だ。文章は描写すべき要素が整理されていてとても洗練されており、読みやすい。僅かな描写の一つ一つで、どれだけ主人公の心が傷つき、歪んでしまっているかが、痛いほどによくわかる。
 特に私が印象的に思えたのは、文中で度々現れる「便器色の歯」という表現だ。
 その意味合いは、是非本編で確認してほしい。この表現を始めとして、少女のミサキに対する音羽は積年の恨み辛みで歪められていて、その歪みが読む側の心をも引き裂くかのようなのだ。
 短編であるからこそ、わずかな描写の一文においても物語の主題、主観人物の人間性を色濃く反映させている。万人向けではないかもしれないが、たしかな実力に裏打ちされた一作だ。オススメの作品である