第5話:それが彼らの幸せだから……。
スミカワと別れた後、エクス達は街の各所でヴィランと戦闘を重ねていた。
「クソッ。いい加減、数が多すぎんだろう!」
「愚痴はあと! ほらそっち行ったわよタオ!」
「へいへい、お嬢。ほら、坊主にシェイン団体様のご到着だ!」
「これはこれは流石に疲れてきたです……」
「が、頑張ろう皆!」
次から次に現れるヴィランに疲れの見え始める四人組。
スミカワは宝珠でヴィランの居場所が分かると言ったが、これだけ寄り集まってこられると使う必要も無いほどだった。
なので、エクス達は目下のところヴィランの相手をしながら、スミカワが待っている筈の街の中央にある塔を目指して進んでいる。
ふとレイナが宝珠を確認すると、それは薄らと赤く染まりはじめていた。
このまま行けば、塔の下に着いた頃には真っ赤に染まっているんじゃないかと思う。
そのことにレイナはほんの少し眉を顰める。
自分達はこの期に及んでスミカワにハメられた。そんな気がしたのだ。
この宝珠にヴィランの位置を示す力など無く、ただヤツらを誘き寄せるための餌だとしたら……。そう考えたら、この異常な状況もある程度納得できるレイナだった。
「フフッ、次に会ったら一発ぶん殴ってやるんだから……」
「た、タオ兄……あ、姉御がなにか物騒なことを……」
「ほっとけ、ほっとけ。お嬢が変なのは今に始まったことじゃねーよ」
「タオ、あなたもあとで覚えておきなさい?」
「ちょっ、そりゃあんまりじゃねーかなお嬢!?」
「皆! 前からまたヴィランの大群が来たよ!」
「むっ、行きますよ新入りさん。ここにいたら姉御の制裁に巻き込まれます」
「なっ!? シェイン裏切りやがったな!?」
「ムフフ……それじゃあ、タオ兄おさらばです~♪」
「あ、待ってシェイン! 一人じゃ危ないよ!」
迫りくるヴィランの大群へエクス達は力を振り絞って立ち向う。
全てはこの想区を混沌の闇から救うために……。
◇
そうして度重なる戦闘を終え、エクス達はようやく塔へ辿り着く。
レイナが手に持つ宝珠は今では真っ赤に輝いていた。
「はぁ……やっと着いたわね……」
「あぁ、あとはこの塔を登るだけか……」
「またパチンってやって上まで運んで欲しいです」
「はは。確かにこれを登るのは大変そうだ……」
言いながら塔を見上げる四人組。
ここまで戦闘続きで疲れ果てた彼らからすると、少々ウンザリする様な高さの塔だった。
「……さぁ、もう少しだけ頑張りましょう」
しかし、立ち止まっていても仕方がないので、レイナに促されエクス達は重い足取りで塔を登り始める。
恐らくはスミカワが待っているであろう最上階を目指して。
◇
幸い、塔の中ではヴィランが襲ってくることもなく、エクス達は割とすんなり最上階に到達することができた。
そこで一人佇んでいたスミカワは四人組に気が付くと彼らを労うように笑顔を向ける。
「お疲れ様でした。これでこの想区も少しは平和になることでしょう。ようやく終われた物語たちに代わってお礼を申し上げます」
言いながら深々と頭を下げるスミカワ。
彼女の言葉にエクス達も自然と表情を緩めるが、ただ一人レイナだけは厳しい視線をスミカワへ向けていた。
それに気が付きエクスは戸惑いがちにレイナへ声を掛ける。
「れ、レイナ? どうしたの?」
しかし、返事はない。レイナはただじっとスミカワを見つめ続けていた。
「おや、どうされました? 『調律の巫女』、私になにか?」
「……ねぇ、スミカワさんどうして貴女からカオステラーの気配が漂っているの?」
いつものようにおどけた口調のスミカワにレイナは震える声で尋ねていた。
エクス達は驚いた表情をレイナに向ける。
「レイナ!? なにを言っているの?」
「おいおい、お嬢そいつは笑えない冗談だ」
「そ、そうですよ姉御……」
信じられないといった様子の彼らに、レイナは大きく頭を横に振る。
「私だって信じたくないわよ! でも、でもこの気配は……」
どうして急に認識できるようになったかは分からない……。
けれど、この薄ら感じる気配は確かにカオステラーのモノだった。
そんな混乱する彼らにスミカワは肩を竦めると、
「あぁ~。最後の最後でそれに気が付いてしまうとは……流石は『調律の巫女』噂に違わぬお力のようですね」
そう言ってニヤリと笑ったのだった。
そのスミカワの態度にレイナ達は怒りをあらわにする。
「私たちを騙していたっていうの? 今までずっと!?」
「そんな嘘だよね、スミカワさん!?」
「坊主、諦めろ……全くクソッタレな話だぜ……」
「やってくれますねーシェインもちょっと頭にきました……」
しかし、それを受けてなおスミカワは楽しそうに笑う。
そうして、彼女はエクス達と出会ったときと同じようにこう告げるのだった。
「ふふっ。さぁさっ、書を! 栞を手に取りなさい、『調律の巫女』とその一行! 目の前にいるのはアナタ方の敵カオステラー! 情けも同情も不要! 本気で来なければその命、『空白の書』とともに喜劇と悲劇で溢れるこの想区に葬ってあげましょう!」
そう告げると、スミカワは自身の手にした巨大な本へ黒い栞を挟み込み、
「シャグラン・コネクト」
あの奇妙な仮面を着けた道化師へと姿を変えて、エクス達に襲いかかってくる。
「……皆、行くわよ!」
レイナは覚悟を決めた表情で『空白の書』に『導きの栞』挟んだ。
この想区での最後の戦いの火蓋が切られた瞬間だった……。
◇
スミカワとの戦闘は熾烈なものだった。
エクス達四人を相手にしながらも全く後れを取らないスミカワ。
その強さは今まで戦った敵の中でも上位に位置することだろう。
けれど、それも今ようやく終わりを迎える。
レイナ、タオ、シェインで作ったほんの僅かな隙。
そこへエクスが最後の一撃を入れる。
「さぁ、今よエクス!」
「やっちまえ坊主!」
「チャンスです新入りさん!」
「任せて! この悪夢を終わらせる! この想区を守るために!」
その渾身の攻撃が入る瞬間、しかしスミカワはスッと変身を解いてしまう。
そして、目を見開く四人に優しく微笑むと、
「ありがとう……これで私も終われます」
嬉しそうに呟くのだった。
そうして吹き飛ばされ、床を転がるスミカワにエクス達は慌てて駆け寄る。
グッタリと横たわるスミカワをレイナは助け起こすと、彼女に問い掛けた。
「スミカワさん……貴女まさか……」
「ふふっ、どうしてそんな悲しそうな顔をするのですか、『調律の巫女』……」
「だって、だって貴女……本当は――
けれど、レイナが続きを言う前に、スミカワは彼女の口へ人差し指を当てる。
「シーッ。その先は言ってはいけません……」
「……ッ。でも、これだけは聞かせて。どうして貴女はこんな事をしたの?」
「こうしなければ、アナタ方は私を倒してはくれなかったでしょう? だから少々宝珠に細工をいたしました。貴女の感覚を狂わせるような……ね?」
そう言って目を細めると、スミカワは幸せそうな表情で話し続ける。
「これでようやく私の物語も終われるんです。ずっとずっと終わりを夢見てアナタ方を待っていた私の物語が。だから、そんな泣きそうな顔は止めてください。できれば『調律の巫女』いえ、レイナさん……貴女には笑って見送ってほしい……」
その言葉にレイナは知らずに流れていた涙を拭い、精一杯の笑顔を向ける。
「ふふっ、ありがとうございます……あぁ、これで私もやっと皆の場所へ行ける。消えてしまった物語を思い続けてここに留まるのはあまりにも辛い日々でした。消えてしまいたい。そう思っても私の『運命の書』は幸か不幸か完結していた……だからアナタ方を待ち続けるしかなかった……」
レイナに支えられ横になったままのスミカワは嬉しそうに微笑むと、彼女へ蒼い栞をそっと渡す。
「皆様、本当にありがとうございました。想区の出口へはその栞が導いてくれるはずです。……アナタ方の旅はまだまだ続くでしょうけど、どうぞ努々自身の進むべき道を間違えませんように。『空白の書』に選ばれたアナタ方は自身の手でその物語を紡がなくてはいけません……どうぞそれが未完で終わることがありませんように……」
そう言うとスミカワは眠るように目を閉じて、そのまま動かなくなってしまう。
レイナはそんな彼女を優しく抱き締めると、静かに床へ横たえる。
「……おい、お嬢?」
口をきゅっと真一文字に結んだレイナに、タオがおずおずと声を掛けると、彼女は目を服の袖で擦りながら立ち上がった。
「さ、皆行くわよ……出口はこの栞が教えてくれるらしいから……」
「ま、待てよお嬢!」
「タオ兄! 今は……今はダメです」
一人背を向け歩き出そうとするレイナをタオは止めようとするが、それをシェインがたしなめる。
今はなにも言わずにレイナのあとを追うことしかできない三人だった……。
こうしてスミカワとカクヨム想区を舞台とした物語はそっとその幕を下ろす。
……これはある一人の少女が終わりを求めて始めた物語。
定められた運命に従い終わりを目指した、ただそれだけの物語。
どんなに悲しい結末が待っていても物語を終わらせる、それが少女の願いだった。
もし、アナタがカクヨム想区を訪れることがあったなら……。
もし、アナタがそこで物語の紡ぎ手になったなら……。
どうかその物語は完結させてあげてほしい……。
未完の名作より、どんな形であれ完結した物語を……。
それが物語の中で生きる彼らの幸せなのだから……。
~Fin~
グリムノーツ×カクヨム想区~物語の生まれる場所~ 荒木シオン @SionSumire
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