確かなものは、形のないこのせつなさだけ

死神と殺し屋斡旋業者から二重の依頼を受ける形で、
中学二年生の少年、依月八尋は人を殺す。
死神から特殊能力を借り、殺し屋として仕込まれた技術を使い、
手掛かりの残りにくい「自然な」やり方で、穢れた魂を刈る。

同じクラスの孤立気味の美少女、見谷未希に仕事現場を目撃され、
今度は未希その人に、同級生殺しの相談を持ち掛けられる。
変わったアプローチではあるけれど、美少女との急接近に、
戸惑う八尋、からかう死神、不穏な探りを入れる殺し屋上司。

存在と不在の境界が揺さぶられ、心理学とファンタジーの狭間で、
最も悲しい結末とは何だろうかと思う。
「悲」という強い印象を持つ文字を当てるのも、少し違うか。
強い印象を残しながらも、この結末はひどくやわらかい。

八尋は希薄な存在であろうと試み、人殺しの醜さを自覚している。
でも、超人でも機械でもなく、彼は生身の十代の少年だ。
昼休みは購買にダッシュしてカレーライスとクリームパンを買い、
イジメの構図に嫌悪を示し、未希に振り回されてときめく。

八尋が少年らしさを見せれば見せるほど、
殺し屋稼業との解離が埋めがたくなって、
決定的な結末の到来の予感に寂しくなる。
鮮やかな夏祭りの情景に、どうしようもない儚さが重なった。

存在していてほしかった。
不在はわがままでずるいんじゃないか。
でも、人は強くないから、消えてなくなるしかないんだろうか。
そういう形でしか報われない存在も、あるんだろうか。

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