砂が戸を叩く音を、この耳で聞いたように感じた

大きな物語の一片を切り取ったような、
不思議で且つ確固とした世界観がある短編小説。

休みの日を除いては、毎日、その町には砂が降る。
砂を降らせる機械か機構があるようで、
郵便配達を請け負う少年にとって、
時に人を病ませる砂こそが故郷の証だった。

唐突に降り止む砂、
足元に影を落とす強い日差し、
人々の表情や装束の変化。
そして、変われないものもある。

砂が降らなくなれば、
手紙を心待ちにする人も減ってしまうんだろう。
仕事、だけではない何かが、
彼の手から離れてしまうかもしれない。

彼の難儀な選択は、少し切なくて、でも清々しい。
旅立ちと郷愁を物語る世界観、すごく好き。

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