甘酸自在の草風水樹マジック!

最近の子供は外で遊ばなくなった……

と嘆く大人は、いつの時代にもいるようである。実際には外で元気している子供たちの姿はしょっちゅう見かけるのだが、年をとると苦言屋になるのが常なのかもしれない。私も「最近の子供(若者)は……」などと言われるのは嫌だったが、今では言う方の年齢に達してしまった。いやぁ、誕生日の到来が怖いです。

さて、草風水樹氏の『小学時代を思い出そう!』。氏といえば巨大作『ショートストーリーSS』で名をはせる短いお話の名手。無限の脳内引き出しと、それを開く魔法の鍵(発想力)の組み合わせで、壮大なSFからH回(ホラーとエッチの意)まで広い守備範囲を生み出すまさに短編界のゴールデングラブなのだが、本作は固定されたテーマに基づく。小学時代の遊びや生活という……

“あるある”ではなく“あったあった”

と、過去形で頷くことができるショートストーリーたちは、草風氏の頭脳に搭載されている“おさないころの記憶”という名の引き出しの中に入っていたものだろうか?ある意味身近、でも遠い……二度と帰っては来ない時代を描き出す氏のクレヨンのような表現力は、無機質な画面上で展開されるネット小説をセピア色に塗りかえる。

そうか、わかった!これは作家としての草風水樹の“原風景”なのだ。あまたのストーリーを作り出す豊かな感性……原点は幼い頃の実体験にあったのだ。もっと思い出を見てみたい!もっとさらけ出して!そんな風に思わせる楽しさがある。だが……!

“忘れていた記憶の扉を、開いてみませんか?”

と我々に語りかける氏の文章は全体的に、ぱっと見は優しい。その一方で話によっては、どこかせつなさを感じさせる。甘さと酸っぱさを組み合わせれば甘酸っぱくなるわけだが、さすが稀代のショートストーリーテラー草風水樹。甘酸の“配合率”も自在であった。酸味をきかせた回には“負の余韻”すらあるのだ。

そこのあなたも記憶の扉、開いてみませんか?“草風水樹マジック”ならば、簡単なことですが……

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