後日談

翌日月曜日、七時頃。

「おはよう」

 隆靖は起床し、制服に着替えてキッチンへ。

「隆靖、おっはよう!」

「タカヤス、おはよう。早起きしたんなら手伝ってくれない?」

今朝の朝食は四日振りに、実帆子と絵梨乃が作っていたが。

「まあ、レタス並べるくらいなら」

 隆靖も快く朝食作りに参加。

「隆靖、それ済んだらお弁当作りも手伝ってくれない?」

「ああ、分かった」

 隆靖がレタスを千切ってお皿に並べている時、

「隆靖、ウィゾマーちゃん帰ったけど朝食作ってるんだな」

 七時十五分頃、いつもと変わらぬ時間帯に父が起きてくる。

「なんか目が覚めちゃって」

「タカヤス、これからも引き続き毎日朝食作り、出来れば夕食作り他家事いろいろ手伝って欲しいな」

「出来るだけそうするよ」

「隆靖、ウィゾマーちゃんのおかげでカジメン力相当上がったわね」

母も感心してくれた。

「パパも隆靖を見習って家事をどんどん手伝って欲しいなぁ」

 実帆子は朝食を進めつつ父のお顔を見つめる。

「実帆子、おれはもう五〇間近だし今さらいいだろ。隆靖はこれからの時代を生きる若者だから、家事はどんどんやった方がいいぞ。それじゃ、行って来ます」

 父は苦い表情でそう伝えて席を立ち、すみやかにここから逃げて行ったのであった。

     ※

 八時頃、以前と同じく隆靖、碧衣、絵梨乃に加え、今日は一限から講義のある実帆子も交じって四人で通学路を歩き進む。

「隆靖くん、今朝も朝食作り手伝ったんだね。えらいっ!」

「うん、つい癖で」 

「隆靖けっこう楽しんでたわよ」

「そっか。隆靖くん、この調子で今日の調理実習はちゃんと調理も手伝ってあげてね」

「分かってるって。でも手が荒れてき出したからな」

「はい隆靖くん、家事のお供、ハンドクリーム。これさえあれば手荒れもへっちゃらだよ」

「あっ、どうも」

「隆靖、もっともっとお料理上手になってね」

「タカヤス、これからもさらに家事の腕を磨いていってね。ワタシももう少し楽したいし」

「分かった。俺なりに頑張るから」

      ※

八時二五分頃、ウィゾマーは所属する中学部一年二組の教室に登校するや、

「えっ!? あのおじちゃん、この学校の先生だったの?」

「うちもついさっき知った。めっちゃびっくり!」

「アタシその先生見た覚えないけど」

「高等部二年の生物担当だったらしいけど、うちも存在すら知らんかったよ」

 金曜の夜、銭湯に現れた女装おじさんの正体をお友達から聞かされたのだった。

       ※

十時半頃。駒早川高校調理実習室で、一年五組の家庭科の調理実習が始まった。

 今回の課題は親子丼だ。

「あの、俺がやるよ」

「えっ!? 遠藤くん、やってくれるの?」

「ああ」

隆靖は包丁を手に取り、玉ねぎやにんじん、白菜を切る作業をテキパキ進めていく。

「手際良いね」

「やるなあ隆靖」

 同じ班の子に褒められ、

「四日ほど練習したからな」

 隆靖は少し照れた。

遠藤くん、よく頑張ってるわね。

 保母先生の彼に対する評価もさらに上がったようだ。

「哲秀さん、この玉ねぎ、包丁でスライスしてね」

「なんで僕が?」 

「つべこべ言わずにやりなさい!」

「はっ、はいぃ。あの、宇多川さん、どうして今回は僕に対し、そんなに厳しく接するのでありましょうか? いっ、いてててっ。やっぱり僕には無理ですよぉん」

「哲秀さん、ちょっと指切ったくらいで大げさ過ぎ。玉ねぎ包丁で切ることくらい小学生どころか幼稚園児でも簡単に出来ることよ。その包丁の持ち方はダメ」

 哲秀は優佳に命令され、仕方なく調理作業を手伝う。

「今日のゆかちゃん、ちょっと怖い」

 同じ班の女の子が微笑む。

宇多川さん、棚網くんへの愛情が篭ってるわね。

 保母先生は教卓から感心気味に観察していた。

「哲秀、頑張れよ。料理出来るようになるとけっこう楽しいぞ」

「てっちゃん、頑張って隆靖くんみたいに家事の出来る男の子になってね」

 隆靖と碧衣はそんな哲秀を傍から応援してあげた。

     ※

「やっほー隆靖お兄ちゃん、家事は今もちゃんとやってる?」

次の日曜日、ウィゾマーがまた遠藤宅を訪れて来た。

「いや、昨日からはほとんどやってない。俺今、期末試験前で忙しいからな」

「それは絵梨乃お姉ちゃんも同じことでしょ。甘えちゃダメ。サボり癖がついてまた元に戻っちゃいそうね」

ウィゾマーはあれ以降もわりと頻繁に遠藤宅や絹山宅へやって来て、隆靖に熱心にイクメン候補育成指導をしてくれている。

「おい母さん、このジャージ、明日の朝までにアイロンかけといて。審判任されてて明日着ていくから」

「はいはーい。そこ置いといて」

ちなみに父は以前と全く変わらず、家事は頼り切り。

隆靖が将来立派なイクメンパパになるためには、父を見習わないべきだろう。


      ※


隆靖達の通う高校の夏休み初日からは、

「やっほー哲秀お兄ちゃん、お久し振り♪」

「あっ、あなたは確か、遠藤君に、イクメン候補育成指導をしたという、ウィゾマー・モエムットさん」

「あったり♪ 一度会っただけなのにフルネームで覚えててくれて嬉しいな。さすが駒高でも学年トップなだけはあるね」

「なっ、なぜ? 僕んちに? 僕の部屋に?」

「お母様から頼まれたの」

「へっ!?」 

「哲秀ちゃん、この可愛らしいお嬢ちゃんの言うことをちゃんと聞いて、家事上手になってね。哲秀ちゃんなら絶対なれるわ」

「ママ、そんな話聞いてないよぉん」

「哲秀ちゃんには、パパみたいにクイズと筆記試験のお勉強だけが取り柄の人間になって欲しくないの」

「このお兄ちゃんも指導しやすそう。よろしくね、哲秀お兄ちゃん。さあ、さっそく昼食作りよ。エッチなゲームするのはそのあとね。んっしょ」

「ちょっ、ちょっと待って下さぁい。下ろしてぇー」

「頑張れ哲秀ちゃん。ウィゾマーちゃん、ご褒美におやつに生八ツ橋ときんつばをご馳走するわね」

「ありがとうございますお母様。アタシ和菓子大好き♪ 頑張るぞぉっ!」

 ウィゾマーは哲秀にもイクメン候補育成指導をすることになったのであった。

(めでたし、めでたし)

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男も家事当然文化圏南国少女の日本男児イクメン候補育成日記 明石竜  @Akashiryu

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