緻密で繊細なスポーツの世界

面白かったあ。
読後に放心するような優秀作品。アイスダンスがどういう競技かの描写はもちろん、そこで生まれるドラマが秀逸でした。

まずはスケートリンクや指導者、チームメイト、大会の質など、様々な要素がアクセルになったりブレーキになったりする描写がリアルです。マイナースポーツって本人の才能や努力よりも環境に振り回される部分がすごく多いので、そこを見せるのがうまいなあと思いました。

それともう一つ抜群に優れているのが、嫉妬の描写でした。対人競技だと負けって意外と簡単に受け入れられるものなのですが、採点競技はあいつが俺より上なのは納得いかん、というのがつきもので、それが様々な形で人間関係に反映され易いジャンルと思います。ペア競技だと特に、あいつと組んだから勝った、負けたという話もあるのでしょう。そこも巧みに入れ込まれていました。

競技の魅力を存分にアピールし、またその競技だからこそ起こる悲しさや醜さはうまくドラマとして昇華できており、恋愛やライバル関係が生み出す喜怒哀楽も豊富。アイスダンスと少年を鮮やかに描ききったとても良い作品でした。出会えてよかったと思える傑作です。

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