第17話 それぞれの心の在処
(扉をノックする音に返事を返すと、幼い少女が顔を出す)
ミラ:「ベルクザータ様、夕ご飯の用意が出来たので呼んできてほしい、と頼まれました」
ベルクザータ:(ピアノを弾く手を止め、立ち上がる)「わかった」
ミラ:(ベルクザータの傍に走り寄り)「今度、わたしにピアノを教えて下さい!」
ベルクザータ:(ミラの頭を撫でながら)「いいよ。ここのところずっと忙しくて、ミラの相手が出来なかったね」
ミラ:「ベルクザータ様はお忙しいのですから仕方ありません。そうだ! 今度、ルミナと一緒にベルクザータ様や皆にお礼をしよう、と話しているのですが、ベルクザータ様は何か欲しいもの、ありませんか?」
ベルクザータ:(少し考え込むような仕草をし)「………物で欲しいものはないな。どんな形であれ、ミラやルミナの気持ちが一番嬉しいよ」
ミラ:(残念そうに)「え~~……」
ベルクザータ:(笑いながらミラと部屋を出る)
ミラ:「物でない何かで、ベルクザータ様は欲しいものがあるのですか?」
ベルクザータ:「………あるよ。できた、と言ったほうが正しいかな」
ミラ:「何ですか?」
ベルクザータ:(人差し指を口に当て)「秘密」
ミラ:「またベルクザータ様の秘密!」(頬を膨らませる)
ベルクザータ:(微笑んでミラの頭を撫でながら目線を合わせ)「…じゃあ、ちょっとだけ教えてあげる。その欲しいものはね、手に入れられたら他に欲しいものなんてもう出来ないだろう、って直感するぐらいにボクにとって価値があるものなんだ」
ミラ:(目をキラキラさせながら)「スゴイですね! ベルクザータ様がそんな風に言うなんて!」
ベルクザータ:「ボクとミラだけの秘密だよ」
ミラ:(輝かんばかりの笑顔で)「はい!」
ベルクザータ:(食堂へとミラと共に足を進ませながら)「(本当はミラ達花奴隷にも価値があるんだけど………、今は言わないでおこう。後々がとっても楽しみになるしね。もし実現出来るのならルイは反対なんか絶対にしないし。元々、帚木同士が殺し合うことを何とかならないか、と試行錯誤した時もある、と言ってたっけ。花奴隷達も反対なんてしない。むしろ帚木が神聖な花とは違う道を歩めることを喜んでくれる。ああ、本当に楽しみだ…)」
(昼下がり、邸宅内の庭園の木陰でランチをしているエルローズ達)
エルローズ:(皆とは少し離れた所で、特大のサンドイッチに齧り付きながら考え事をしている)
ブレス:『勇者の一人が亡くなったことで…、帚木の存在が特定の者達に限らず、勇者や聖女方にも伝えられるでしょう。これからは慎重に行動しないといけませんね』
クリフト:『ですが…、意外でした。過去の帚木は出会った早々に争いがはじまるのに、何も行動を起こされないなんて』
テオ:『エルシャに利用価値でも見出したんじゃない?』
「(あのことは絶ッッッ対に誰にも喋りたくないから言わなかったけど………、変な感覚がしたのは確かだった。二度と会いたくはないけれど、そうもいかないんだろうなぁ…)」
ナコ:(エルローズに飛び付き)「エルシャ~! どうしたの? くらいかおして」
エルローズ:「…頭の上にいきなり乗っかるのは止めて」
ナコ:「エルシャにだけだも~ん」(頭の上から膝の上に移動する)
エルローズ:(呆れたようにため息を吐いて、サンドイッチを千切り、ナコに食べさせる)「ねえ、ナコ………」
ナコ:(サンドイッチを食べながら)「なに?」
エルローズ:「もし……、もしも、だけどね」
ナコ:「うん?」
エルローズ:「帚木同士が争わなくてもいい未来が見つかったら、嬉しい………?」
ナコ:(驚愕したように目を瞠り)「エルシャ、みつけたの?!」
エルローズ:(苦笑しつつ)「もしも、だよ」
ナコ:(残念そうにしながら)「うれしいよ。だって、しんせいなはなとはちがううんめいがあるってことだもん! それがしょうめいされたら、はなどれいのうんめいもかえられるてがかりになるよね!」
エルローズ:「そっか…」
ナコ:「あ、でも………」
エルローズ:「なに?」
ナコ:「しんぴとぼせいがどうじにいきれるみちがみつかったとしても、いっしょにいれるかはわからない」
エルローズ:「どうして?」
ナコ:「かんがえかたがこんぽんてきにちがうんだもん。ぼせいのははきぎはあらそいごとなんかぜんぜんのぞまないけど、しんぴはむかしからじぶんのねがいのままにこうどうするから、ちのにおいがきえたことがないよ」
エルローズ:「そ、そうなんだ……」
ナコ:「でも、そんなのいのちをうばいあうことにくらべたら、ちいさいことだよね」
エルローズ:(微笑みながらナコの頭を撫でつつ、ブレス達の傍に行く)「(嫌だな………。殺される未来が消えたとしても、私が帚木であることは変わらない。なのに、一緒に生きる未来が想像出来ないことに安心してるなんて。………対同士なのに)」(ベルクザータの顔が脳裏を過ぎり、頭を振ってそれをはらうと、ホールケーキに齧り付く)
ベルクザータ:『生まれて初めて欲しい、と願ったものを手に入れる正当な理由が出来た。生まれてきた全ての意味を投げ捨てても構わないと思うほどの希求。ならば………、君はボクに全てをくれないと、不公平だとは思わないかい? 幼く愛しいボクの対』
エルローズ:『生まれて初めて心の底から恐怖して無意識に嫌悪した存在は自分の対。もし…、共に歩ける道が見つかったとしても、心は共にあることは、恐らく永遠に叶わない。結局どんなに足掻いても、同じ道を歩めるようには生まれない、ということなのだろうか? なんて残酷なお伽噺の続きなのだろう』
エルローズ:(木陰でまどろみながら、笑い合うブレス達を見る)「(今はまだ、この平穏な時間に水を差すことはしない。いつか来る必然の時、私はキチンと皆に伝えられるかな………?)」(眠りの中に落ちていく)
対の王とさだめの華 羊 @akishino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます