先輩、異世界で内政するんすか?
先輩「チース」
後輩「うっす」
先輩「ようよう。聞いてくれよ。昨日さあ、また新しい女神さまが来てさあ。今度は危なくねえ世界に連れてってくれるって言うんだよー」
後輩「そっすか」
先輩「もうそこにしちゃおうと思うんだけど、どう思うー?」
後輩「いいんじゃねっすかね」
先輩「…………」
後輩「どうしたんすか?」
先輩「いや、なんかテンション低くね?」
後輩「そっすか?」
先輩「なんか田中さんたちも微妙な顔してたし、変なことあったの?」
後輩「あー。ちょっと発注ミスがあったらしくて、オーナーの機嫌むっちゃ悪いんすよ」
先輩「え。マジで?」
後輩「うっす。すっげえ怒られたんで、それでみんな元気ないんじゃないっすかね」
先輩「へー。あ、オーナーは?」
後輩「もう帰りましたよ」
先輩「そっかー。マジよかったわー。あのひと、口うるせえからなあ」
後輩「先輩、マジ抜け目ねえっす」
先輩「おいおい、そんな褒めんなよー」
後輩「ほんと死んでくださいっす」
先輩「ひどくねー。だってしょうがねえじゃーん。おれいなかったんだしさー」
後輩「……そっすね」
先輩「え。なに。なんかあんの?」
後輩「いえ。それより次の異世界ってどんなとこっすか?」
先輩「お。聞いちゃうー?」
後輩「暇なんで」
先輩「おま、おれにとっちゃ重要なことっしょ」
後輩「そっすね。じゃあこっちの態勢が整うまで聞かないことにします」
先輩「いやいやいや。やっぱ聞いて。お願い聞いて」
後輩「先輩。マジ面倒くせえっすね」
先輩「……なんか最近、おれに遠慮なさすぎじゃない?」
後輩「親愛の証っす」
先輩「え。そう? ならいいんだけどさー」
後輩「もういいから、はやく言ってくださいよ」
先輩「あ、うん。ごめん。いやなー。それが某王国なんだけどさー」
後輩「うっす。もう満足っす。ありがとうございました」
先輩「はやくね!?」
後輩「気のせいっす」
先輩「もっと聞けし。気になるっしょ?」
後輩「どうせあれでしょ。お姫さまと結婚させてやるとか言われてほいほいついてったらすっげえブサイクだったとかそんなところっしょ」
先輩「おま、違えし!」
後輩「違うんすか? けっこういい線いってたと思うんすけど」
先輩「おまえさー。おれの人生なんだと思ってるのよー」
後輩「希望通りにいかないのが人生っすから」
先輩「お、おう。まあ聞けし。そこの世界ってさ、もう何十年も戦争してないし、なにより近くに他の国とかねえからさ。マジ優良物件だって言ってたわ」
後輩「モンスターの侵攻とかないんすか?」
先輩「そこモンスターいねえらしい」
後輩「へえ。いいじゃないっすか」
先輩「だしょー?」
後輩「あれ。どうしてそんなところにこっちの人間を召喚するんすか?」
先輩「んっふっふ。これっしょ」
後輩「なんすか、その分厚い本」
先輩「ちょっと読んでみ」
後輩「えー。なんすか、これ。法律の本じゃないっすか」
先輩「そゆこと」
後輩「え。ちょっとわかんねえんすけど」
先輩「えー。おまえわかんねえの? マジで? ま、しょうがねえよなー。やっぱおれっちに比べりゃ、他のやつってば一歩、遅れちゃうからなー」
後輩「うぜえからはやく言ってください」
先輩「お、おう。あれよ。そこ、まだ文明的に遅れてるらしくてさー。法律とか文化? とかの水準を上げたいんだってさー」
後輩「あー。なるほど。内政チー……、いや内政Godってやつっすね」
先輩「え。なにそれ?」
後輩「……それで、内政で無双するんすか?」
先輩「そーそー。そういうわけよ。なんか前任者が急に死んじゃって急いでんだってさ。ま、見てろよ。おれ異世界のソクラテスになっちゃうからさ」
後輩「あれ。ソクラテスって哲学者じゃないっすか?」
先輩「え?」
後輩「…………」
先輩「…………」
後輩「……まあ、でも大変そうなんで頑張ってください」
先輩「おうよ。ま、こんなん余裕っしょ。これで金もハーレムも思いのままじゃん」
後輩「そっすかねえ。だって、内政ってすげえ大変じゃないっすか」
先輩「んなこたねえよ。だってほら、大統領とか見ろよ。あんなおっさんができるんだからおれも余裕だろー?」
後輩「大統領? あ、総理大臣のことっすね」
先輩「え。そう言ってんじゃん」
後輩「え?」
先輩「え?」
後輩「……あ、いや。なんでもねえっす。でも先輩。あのおっさんたち、すげえ仕事してますよ。それに先輩、その本ぜんぶ覚えられるんすか?」
先輩「大丈夫。ほら、ここのページ見てみ。昨日寝る前に覚えたとこよ」
後輩「三行しかマーカー引かれてねえんすけど」
先輩「いやいや、それあれだから。大事なとこだけだから。他んとこはほら、ニュアンスさえ合ってればオーケーっしょ」
後輩「そんなんで大丈夫っすか?」
先輩「大丈夫、大丈夫。いざってときにはほら、おれが好きにつくればいいからさ」
後輩「それ汚職じゃないっすか」
先輩「バレなけりゃ大丈夫だってー。余裕余裕」
後輩「そう言うなら止めませんけど」
先輩「いやー。マジ楽しみだわー。まさかこんな方法があるとは思わなかったわー。とりあえず殺される心配もないし、なによりタバコあるらしいからさー」
後輩「え。殺されないことはないと思いますけど」
先輩「……え。なんで? 敵とかいないんしょ?」
後輩「いや、だって内政とか暗殺のオンパレードでしょ」
先輩「どゆこと?」
後輩「あー。ほら、政治って利益に絡むから、派閥争いとかすごそうだなって」
先輩「い、いやいや。それでも殺されることはないっしょ」
後輩「殺されるでしょ。ていうか政治じゃなくてもそういう話あるじゃないっすか。先輩がさっき言ってたソクラテスも確かそれ系っすよ」
先輩「…………」
後輩「先輩。ひとがいいからそんなところで生きていけるのかなって。たぶんちょっとのミスが命取りだと思いますけど」
先輩「お、おま、ビビらせんなよ。おれが行く世界はそんなことねえから。いやマジで。女神さまも平和だって言ってたから」
後輩「まあ、そうかもしれねえっすけどね。……あれ。でも前任者さん、急に死んだとか言ってましたよね。なんでか聞きました?」
先輩「あ……」
後輩「…………」
先輩「…………」
後輩「先輩。毒味だけは忘れないでくださいね」
先輩「……やっぱやめる」
後輩「え。どうしてっすか。せっかく勉強したんでしょ?」
先輩「なんつーの? やっぱ、ひとには身の丈に合った幸福ってのがいちばんだよな」
後輩「そっすね。……あ、先輩。ひとつだけ言い忘れてたんすけど」
先輩「なに?」
後輩「さっき言ってた発注ミス。先輩らしいっす」
先輩「……マジで?」
後輩「うっす。裏にポカリ100箱きてるんで、確認しといてください」
先輩「…………」
シュボッ。
先輩「ミスっても死なねえ世界って、最高だよな」
後輩「まあ、一時間くらいは説教あると思いますけどね」
先輩「……代わって。あとでフランクおごるから」
後輩「いやっすよ」
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