先輩、異世界で貴族になるんすか?



後輩「お疲れース」


先輩「ボンジュール」


後輩「…………」


先輩「どうしたね」


後輩「先輩。なんか悪いもん食ったんすか?」


先輩「違えし。おまえ、ほんっとおれのこと馬鹿にしてるだろ」


後輩「いや、だって急にどうしたんすか。今度はなんに影響されたんすか」


先輩「影響とかじゃねえし。普通に貴族のたしなみってやつだろ」


後輩「貴族すか?」


先輩「おれさあ、昨日、テレビで観ちゃったのよ」


後輩「なにをっすか?」


先輩「『現代社会に警鐘! いま、異世界から帰らない若者が増えている!』ってやつ」


後輩「あぁ、あの特番っすか」


先輩「なんだ、おまえも観てたの?」


後輩「まあ、テレビ点けてたら流れてたんで」


先輩「あれでさあ、異世界に行って帰ってこない二十代以下のグラフ出てたじゃん」


後輩「ありましたね」


先輩「向こうに永住しちゃった理由でいちばん多かったの、なんだった?」


後輩「えーっと、なんでしたっけ?」


先輩「おまえ、ちゃんと観てろよなあ。『貴族になったから』ってのがいちばん多かったじゃん」


後輩「あー。それで先輩、さっき変な挨拶してたんすか」


先輩「変とか言うなし。やっぱおれも貴族になっちゃうだろうからさ。いまから練習しとかないといざというとき恥かいちゃうと思ったわけ」


後輩「帰還者のインタビューでも言ってましたもんね。いざ貴族になっても作法がなってないと他の貴族から嫌がらせされるって」


先輩「まあ、貴族ってのは生まれの良さが現れちまうからな。その点、おれっちは安心よ。だってうちの親、区長やってるからね。月末に区費とか集めてるし」


後輩「パネえっすね」


先輩「でもま、とりあえず第一印象が大事だと思うわけよ。貴族といったらまずかっけえ挨拶からっしょ」


後輩「そっすね」


先輩「そんでゆくゆくはおれの街で特産品とかつくっちゃってぼろ儲けよ。可愛い女の子も侍らしちゃってウハウハだぜ」


後輩「内政チートってやつっすね」


先輩「…………」


後輩「あ。すんません、内政Godすね」


先輩「そうそう。そゆこと」


後輩「でも先輩。貴族になるために、なにするんすか?」


先輩「……え。なにが?」


後輩「いやだから、どうやって貴族になるつもりなんすか?」


先輩「貴族ってすぐなれるもんじゃねえの?」


後輩「違いますよ。そもそも貴族って先祖代々のものなんで、普通は一般人がなろうと思ってなれるもんじゃねえっすよ」


先輩「じゃあ、貴族になったやつらってなにしたの?」


後輩「まあ、いろいろじゃねえっすかね。戦ったり貢いだり。とにかくあれっすよ。王さまの目について、むっちゃ気に入られるくらい目立つのが基本っすね」


先輩「でもさ、異世界転生者ってだいたい無職からのスタートじゃねえの?」


後輩「そっすよ。だから村上みたいな『運S』が勝ち組になれるんすよ。それでもお城のシェフになってから王さまに名前覚えてもらうまで三年かかったって言ってましたもんね」


先輩「うっそ。そんなかかんの?」


後輩「まあ、それでもいいほうだと思いますよ。だって普通、一般人が王宮に入ることも無理でしょ。あるいはあれっすね。戦場でむっちゃ武功を立てて貴族に抱えられるとか」


先輩「いや、それダメ。無理。だって怪我したら死ぬじゃん」


後輩「そっすね。特番でもリスクの伴う安易な手段って言ってましたもんね」


先輩「だしょ? そんな野蛮なのおれには相応しくねえし」


後輩「まあ、あれっすよ。裏ルートもあるらしいっすよ」


先輩「なにそれ、むっちゃ気になる」


後輩「国の大臣とかがやってる不正を裏から暴いて一気に成り上がる方法っすね。これ最短で一年らしいっすよ。まあ、それにはまず転生した国にレジスタンスがいることが前提っすけど」


先輩「え。それ危なくない?」


後輩「ほとんど大臣に捕まって広場で処刑らしいっすね。そもそも王さまもグルってのもあったらしいっす。どっちにしろ賭けっすよ」


先輩「…………」


後輩「だからまあ、あれじゃないですか」


先輩「……そうなあ」


 シュボッ。


後輩「異世界から帰らない若者の生存者でトップは『貴族になったから』ですけど、全体の九割は『死んだから帰れない』って言ってましたもんね」


先輩「……結局、この世界がいちばん安全だよなあ」


後輩「先輩。もしかして昨日のクレームまだ気にしてるんすか?」


先輩「だってさあ。フランクフルト入れ忘れただけでクビにしろっておかしくない? どんだけフランク食いたかったんだよ」


後輩「あー。あのおばちゃん、ちょっと虫の居どころ悪そうでしたよね」


先輩「そんなんだからまともな就職もできねえんだよクズって、あいつに関係ねえじゃん!」


後輩「まあまあ。店長も言ってたじゃないっすか。気にしちゃダメっすよ」


先輩「そりゃおれだって中卒で三十路前だけどさ。焦ることくらいあるんだからさあ……」


後輩「元気だしてくださいよ。フランク食います?」


先輩「……黒胡椒チキンがいい」


後輩「先輩。まじ卑しいっすね」



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