先輩、異世界で生まれ変わるんすか?



田中「あ。そこです。閃光玉投げてください」


先輩「っしゃあ!」


 ピカッ。チャッチャラー。


田中「お疲れさまです。あ、素材剥ぐの忘れないでくださいね」


先輩「あ。そうだったわ。田中さん、ありがと」


田中「いえ。じゃあ、わたしレジ戻りますね」


先輩「うーっす」


 ガチャリ。


後輩「先輩、好調っすね」


先輩「おうよ。あ、レジありがとさん」


後輩「それはいいんすけど」


先輩「なによ?」


後輩「先輩、なんか普通にゲーム上達してません?」


先輩「え。なんか変?」


後輩「だって先輩、もともと冒険者として適正武器さがすために始めたんでしょ」


先輩「あ。マジだわ」


後輩「いまの先輩、なんか普通にバイト先の女の子とゲーム楽しんでる一般人っすよ」


先輩「おま、そんなこと言うなし。いいか、英雄にも休息ってのは必要なんだよ」


後輩「そもそもまだ戦ってないじゃないっすか」


先輩「それにあれよ。田中さんと話すことはハーレムづくりの訓練も兼ねてんだよ」


後輩「田中さん踏み台にして女の子とイチャイチャするんすか。マジ鬼畜っすね」


先輩「そういうこと言うのやめろし!」


後輩「すんません」


先輩「わかればいいし」


後輩「あれ。でも先輩。そういえばどういう世界に行くか決めたんすか?」


先輩「あー。それなあ」


後輩「なんか、けっこう誘いが来てるんでしょ?」


先輩「そうなの。昨日も新しい女神さま来てさあ。けっこう強引でびびったわ」


後輩「今度はどんなとこっすか?」


先輩「えーっと、なんか普通の中世ヨーロッパっぽいんだけど」


後輩「また、なんかあったんすか?」


先輩「いやさあ、なんか普通に魔王軍と戦争中で萎えたわ」


後輩「そんなん命がいくつあっても足りないじゃないっすか」


先輩「そうだよ。やっぱ戦争なんかよりさ、美人な嫁さんとのんびりしたいじゃん?」


後輩「スローライフってやつっすね」


先輩「まあ、そんなわけでそこも断っちゃったんだけどさあ」


後輩「でも、考えたらすげえっすよね」


先輩「なにが?」


後輩「女神さまの誘い断ったひとのとこ、普通は次の誘い来ねえっすよ。先輩、これ何度目っすか?」


先輩「ま、まあな。おれくらいだったら、そりゃ当然っしょ」


後輩「なんか怪しいっすよね。向こうで先輩の住所出回ってるんじゃないっすか?」


先輩「そんな詐欺みたいな言い方するなし!」


後輩「すんません」


先輩「まあ、それでもひとつはもう決めたわけよ」


後輩「え。なんすか?」


先輩「おれ、転生するときはまず生まれ変わらせてもらうわ」


後輩「それってあれっすか。生前の記憶のまま子どもからやり直すってやつっすか?」


先輩「そゆこと」


後輩「どうしたんすか?」


先輩「ほら、前にテレビの特番でやってたじゃん」


後輩「あー、『異世界から帰らない若者が増えている!』ってやつっすか?」


先輩「そうそう。あれでさ、異世界から帰らない若者でいちばん多いのって『貴族になったから帰らない』ってのだったじゃん?」


後輩「まあ、生存者ではそうでしたね」


先輩「おまえ、ほんとノリ悪ぃわー。そういうテンション下がること言うのやめてくれるー?」


後輩「すんません」


先輩「ま、どうやったら貴族になれるのかって考えたわけ。そこで思いついたの。だったら最初から貴族として生まれとけば完璧じゃね?」


後輩「まあ、理屈はそっすね」


先輩「だしょー? つーわけで、おれっち、異世界行ったらまず貴族として生まれ変わるわ。そしたら礼儀作法とか自然と身につくっしょ?」


後輩「そうかもしれないっすね」


先輩「あとは生まれ変わるとこ次第だよなー。やっぱさあ、戦争とかおっかねえじゃん? もう平和になったあとの世界とか最高だよな。次の女神さま、そういうとこの担当じゃねえかなあ」


後輩「そっすね。あとは人間になれればいいっすね」


先輩「……え。どゆこと?」


後輩「え。子どもからやり直すって、別に人間とは限んなくないっすか?」


先輩「ちょ、待った待った。おまえ、ひとりで勝手に話、進めないでくれる? おれにもわかるように言ってよ」


後輩「いや、生まれ変わりの話聞くと、けっこうえぐいのあるじゃないっすか。動物に生まれて、人間の言葉しゃべるから群れから追い出されるとか」


先輩「そんなんあるの?」


後輩「けっこうありますよ。モンスターに転生して、すぐデンジャラスな共食い生活に放り込まれたりとか有名っすよね」


先輩「…………」


後輩「おれだったら記憶持ったままモンスター捕食するとか絶対無理っすもん。やっぱ女神さまに選ばれるだけあって、みんな精神タフっすよね」


先輩「……いや、ほら。もしかしたら転生すること選べるかもしれないじゃん」


後輩「ほぼランダムだって聞きますけどね」


先輩「ほらー、おまえ本当に夢がねえやつだよなあ! あるし。絶対あるし! そもそもあれでしょ? それって、こっち戻ってきたやつの話っしょ?」


後輩「あー。まあ、そうかもしれないっすね」


先輩「そゆことでしょ。おれ見えたね。そのからくり気づいちゃった。そもそも理想の転生したやつがこっち戻ってくるわけないじゃん」


後輩「先輩、マジ冴えてるっすね」


先輩「お。なに、とうとうおれの偉大さ気づいちゃった系?」


後輩「はい。マジ感服っす。じゃあ、また子どもからやり直すの、ほんと苦しいでしょうけど頑張ってください」


先輩「おいおい、おまえ大袈裟だな。そんなん余裕だろ?」


後輩「でも先輩、二十年も禁煙できるんすか?」


先輩「……え?」


後輩「だって先輩、いまの記憶持ったまま子どもからやり直すんでしょ? だったら、また大人になるまでタバコ吸えねえっすよ?」


先輩「い、いやいや。向こうって、こっちほど法律きちっとしてないっしょ?」


後輩「してなくても、まともな親なら子どもにタバコなんて吸わせねえっすよ。先輩、そんなネグレクト寸前の家庭に生まれたいんすか?」


先輩「ね、ネグなに?」


後輩「あー。簡単に言えば、子どもの世話を放置する親のことっすよ」


先輩「あ、あれね! はいはい、そんくれえ知ってっし。おまえが声小さくて聞こえなかっただけだし」


後輩「まあ、それはどっちでもいいんすけど」


先輩「でもさおまえ、やっぱ女ってのは悪い男に惚れるもんじゃん?」


後輩「……先輩。せっかく理想の世界に生まれたのに、二十歳前に肺ガンで死にたいんすか?」


先輩「…………」


後輩「おれだったら、死ぬまで健康にハーレム楽しみたいっすもんね。まあ、あくまでおれの意見なんで、先輩に無理強いするつもりねえっすけど」


先輩「…………」


後輩「先輩?」


 シュボッ。


先輩「とりあえず、こっちで肺ガンになったら決めるわ」


後輩「そっすね」



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