先輩、異世界で冒険者になるんすか?



後輩「うーっす」


先輩「…………」


後輩「あれ。先輩。なんか今日は静かっすね」


先輩「…………」


後輩「ちょっと先輩?」


先輩「うわああああああ! え、え。なに、おまえ、いつからいたの?」


後輩「いや、いま来たとこっすよ」


先輩「あ、そう? あー、びびった」


後輩「どうしたんすか?」


先輩「いや、どうしたってことはないんだけどさ……」


後輩「あ。田中さん」


田中「お疲れさまです」


後輩「田中さんもいま休憩? 先輩といっしょなんて珍しいね」


田中「はい。ちょっと店長が外に出て、時間ずれちゃって」


後輩「へえ。……あ。先輩。もしかして田中さんいるから静かなんすか?」


先輩「おま、違えし!」


後輩「痛えっす。わき腹小突かないでくださいよ」


先輩「おまえ、おれがコミュ障みたいに言うなや」


後輩「あれ。違うんすか?」


先輩「違えよ。おれはほら、ちょっと考え事してただけ」


後輩「また先輩とはずいぶん縁遠い言葉っすね」


先輩「馬鹿にすんなし。おまえ、あとで絶対しめる」


後輩「すんません。それで、なにを考えてたんすか?」


先輩「そりゃおまえ、おれが異世界行ったあと、どのジョブになるかってことよ」


後輩「まだ異世界行くの諦めてなかったんすか?」


先輩「いやいや、まだ絶賛これからだし。終わったみたいに言うなし」


後輩「それでジョブってなんすか?」


先輩「そりゃ職業よ。向こう行って、どんなことして金稼ぐかってこと」


後輩「コンビニ店員でいいんじゃないっすか?」


先輩「おまえ馬鹿。おれがそんなチンケなやつに収まるわけねえだろ。ジョブってのは冒険者のどれかってことよ」


後輩「え。先輩、冒険者になるつもりなんすか?」


先輩「そらそうよ。男ならやっぱ、モンスター狩って成り上がってくのがビクトリーっしょ」


後輩「ビクトリーなんすか」


先輩「それによ。あれじゃん? モンスター狩ってレベル上げれば、戦争より楽に貴族になれそうじゃん」


後輩「そっすか? いまの異世界って、パラメーター重視じゃなくてスキル覚えたり装備強化していくのが主流だって聞きましたけど」


先輩「おまえ、ほんとテンション下げる天才だわ。大丈夫よ、おれっちが呼ばれる世界はレベル制度が残ってっから」


後輩「まあ、そう言うなら」


先輩「そんでさ、おれってばどのジョブが合ってっかなって思ったわけ。やっぱ王道は戦士だよな。モテっし。魔法使いもいいよな。あ、いま盗賊ってのも流行ってるらしいじゃん」


後輩「地味なスキルでチートすんのは、確かにかっけえっすよね」


先輩「あー、迷うわー。どれかひとつってことはねえだろうけどさ、やっぱひとつに絞ったほうが成功する確率も高えらしいしな」


後輩「もうコンビニ店員でいいんじゃないっすか?」


先輩「おま、バーコードをピッとするスキルでどうやって無双すんだし」


後輩「棚の陳列がすべてを決める異世界もあるかもしれないっすよ」


先輩「ほんと真面目に考えてよー。おれの人生かかってるんだからさあ」


後輩「でも、考えるのと実際にやるのとは違うんじゃないっすか?」


先輩「ま。おまえはそう言うと思ったわけ。そんでこんなものを用意しちゃったのよ」


 ゴソゴソ。


後輩「PSPっすか?」


先輩「ソフトはモンハンな」


後輩「あー。なるほど」


先輩「こいつでおれの適正武器ってのを探すの」


後輩「それって異世界の武器と共通点が多いらしいっすもんね」


先輩「そゆこと。こいつでおれのぴったしのジョブを見つけるわけよ。ほれ、やろうぜ」


後輩「でもおれ、モンハン持ってないっすよ」


先輩「そう言うと思って、弟の持って来た」


後輩「先輩。こういうとき、ほんと用意いいっすよね」


先輩「だろー?」


後輩「うわ、弟さんの装備ぜんぶ揃ってるじゃないっすか。パネえっすね」


 パーパパパー。


先輩「うっわ、始まった!」


後輩「まじファンタジーっすね」


先輩「おい、どうやってモンスター倒すの?」


後輩「集会所でしょ」


先輩「集会所ってなに?」


後輩「クエストの出発口ですよ。ていうか先輩、その前に装備はどうするんすか」


先輩「やっぱ大剣っしょ。かっけえし」


後輩「じゃあ、おれ片手剣で」


先輩「おま、そんなひょろいので大丈夫なの?」


後輩「いや久しぶりなんで。やっぱ初心者はこれが使いやすいんすよ。ていうか先輩、なんでゲーム持ってんのにそんな初期装備っぽいんすか?」


先輩「買ってすぐ止めてたから」


後輩「え。なんでっすか?」


先輩「いや、べつにいいじゃん」


後輩「……あー。もしかして友だちいなくて飽きちゃったんすか?」


先輩「違えし! ほら、さっさとやんぞ!」


 ピコピコ。


先輩「うわ。なにこいつ、ぜんぜん倒せねえんだけど」


後輩「弱ってる気配がねえっすね」


先輩「この皮膚、硬すぎじゃね」


後輩「ていうか先輩、死にすぎっすよ」


先輩「だってこいつ空飛ぶとかずるくね?」


後輩「弱点とかあるんじゃないっすか?」


先輩「ちょっとwiki見るわ」


後輩「だめっすよ。異世界のモンスター狩るとき、wikiねえっすよ」


先輩「えー。じゃあ、どうすんの?」


後輩「いや、そういうときこそ仲間と協力するんすよ。ていうか先輩、ソロでやるんなら、おれがいっしょにやっちゃだめなんじゃないっすか」


先輩「いや、だってさあ」


田中「……閃光玉を投げるんですよ」


先輩「うわ!」


後輩「あれ。田中さん知ってるの?」


田中「弟たちが好きなので」


先輩「え。あ。あ……」


後輩「先輩。どもりすぎっす」


先輩「い、いやいや。なに言ってんのおまえ。んなわけねえし」


後輩「それで田中さん。閃光玉ってどこにあるの?」


田中「そのクエストだと支給品の中にあるはずですけど」


先輩「し、支給品ってなに?」


田中「最初のキャンプのところに……。貸してください」


先輩「あ、うん」


 ピコピコ。


後輩「うわー。ほんとに倒しちゃったよ。田中さんかっけえ」


田中「このクエストは簡単なので」


先輩「いや、まじすげえって」


後輩「先輩、やりましたね」


先輩「おう。やっぱ、冒険者ってのはこうじゃなくちゃな」


 シュボッ。


先輩「やっぱ、一狩りのあとのタバコは格別だわ」


後輩「そっすね。……ま、とりあえず」


先輩「そうな」


後輩「先輩。ジョブの前に、まずソロ冒険者が向いてないんじゃないっすか」


先輩「……そうなあ」



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