先輩、亜人のお嬢さんと結婚するんすか?



先輩「チーッス」


後輩「うっす。ご機嫌っすね」


先輩「わかるぅー?」


後輩「スキップしながらコンビニ入ってくるひと、なかなかいませんもんね」


先輩「そっかー。やっぱわかっちゃうかー。ま、しょうがねえよなあ。おれっちくらい人気あるやつだと、その一挙一動が注目の的だもんなあ」


後輩「そんで、どうしたんすか?」


先輩「おうおう、聞きたい? そんなに聞きたい?」


後輩「むっちゃ気になるっす」


先輩「まあ、待てって。ちょっと一服さして」


 シュボッ。


先輩「……あー。実はおれ、また異世界行くことにしたんだわ」


後輩「え。マジっすか。この前、死ぬの嫌だから行かないって言ってませんでした?」


先輩「そうなの。実はあれ以来さあ。あ、あれってのは最初に女神さまが来たときな」


後輩「あぁ、無呼吸で死にかけたってやつっすね」


先輩「そう、それ。実はあれ以来、ぜんぜん女神さま来なかったんだわ。だからちょっとおれもさ、あれ、これ本当に異世界行けんの? って思っちゃってたわけ」


後輩「ナーバスっすね」


先輩「え。ナーなに? あ、うん。それ。まあ、それでナーなんとかっちゃってさ。ちょっと凹んでたわけ。それが昨日の夜な。また女神さま来たんだわ」


後輩「マジっすか。え。前と同じひとっすか?」


先輩「あー。ちょっと違ったかも。髪とか服の色とか違ったけどな、なんか今回の女神さまのほうがこう、なんつーの? 女神っぽいっていうかさ」


後輩「女神っぽいすか?」


先輩「こう、バインバインなわけ」


後輩「あー。先輩、おっぱい好きっすもんね」


先輩「そんで露出がやべえのなんのって。なんつーんだっけ、あのマフラーみたいな布?」


後輩「羽衣っすか?」


先輩「それ。それで身体隠してるんだけどさ。薄くて身体のライン見えんの。もうあれほぼ裸じゃん。やばくね?」


後輩「あー。でもおれ、女神さまってもっと清純な感じのが好きなんで」


先輩「ほんっと、おまえってばノリ悪ぃよなあ。ま、お子さまにはそういう芋くさいほうがお似合いだよな」


後輩「そっすね。それで先輩、その女神さまと異世界行かなかったんすか?」


先輩「あー、それなあ」


後輩「またお母さんに助けられたんすか?」


先輩「いや、違えんだけどさ。ほら、この前さ、まずどんな世界か聞いてからにしたほうがいいって話してたじゃん?」


後輩「ありましたね」


先輩「だからさ、聞いたの。どんな世界ですかって」


後輩「それで、どんなだったんすか?」


先輩「ハーレム」


後輩「え?」


先輩「もうハーレムなの。なんつーの? 人魚? の里みたいなところの危機を救ってほしいらしくてさあ。いま転生したら運命いじってそのひとりと結婚させてくれるらしいの」


後輩「見たんすか?」


先輩「おう。映像をちょこっとな」


後輩「どんなでした?」


先輩「もうやべえよ。さすがおとぎ話になっちゃう種族だよな。みんなすっげえ可愛いの。そのうえ、人魚だからなにも着てねえわけ」


後輩「裸族っすね」


先輩「おま、そんな言い方なくね? もっとこう、情緒とかさあ」


後輩「すんません」


先輩「そんで、おれのお嫁さんになる運命の娘も見せてもらったの。その子、可愛いうえにすっげえいい子なのよ。病気のお母さんのために昼は働いて、夜は弟たちの世話してるの」


後輩「守ってやりたいっすね」


先輩「そうなの。だからさあ、おれもう決めちゃった。ここ行きますって女神さまに言っちゃったの」


後輩「あれ。でも危機ってどんなんすか?」


先輩「あー、なんかあれらしいよ。危機っつっても、実際は男が少なすぎて子孫が残せねえってことらしくてさ。仕方ないから異世界から男を引っ張ってきてるんだって」


後輩「つまり、あれっすか?」


先輩「そゆこと。もう、やり放題のハーレムルート待ったなし」


後輩「いいっすね」


先輩「だしょー? やっとおれの時代来たね」


後輩「あれ。でも先輩。どうしてさっさと行かなかったんすか?」


先輩「いやさあ、ほら、もうこっちには帰れねえじゃん? 一応、お母ちゃんに最後に親孝行してえし、ここに辞表も出さなくちゃいけねえからさ。一日だけ待ってもらったの」


後輩「そっすか。寂しくなるっす」


先輩「おまえにも世話になったからさ。ほら。さっきここで買ったアメリカンドッグ。食ってくれよ。揚げたてのやつもらってきたからさ」


後輩「あざっす」


 もぐもぐ。


先輩「いやあ、でもあんな美人だらけのところで、おれ身体もつかなあ」


後輩「そっすね。下手したら一分もたねえっすもんね」


先輩「おいおい、そりゃ早すぎだろ。え。おまえそんなんなの?」


後輩「いやあ、ちゃんと計ったことないんで」


先輩「まあ、おれっちはあれだから。金払った時間分はきっちり楽しむタイプだから。この前もさあ……」


後輩「え。先輩、そんな頻繁にプール行くんすか?」


先輩「は? どゆこと?」


後輩「……あ、あー。はいはい。そういう意味っすね。すんません。勘違いっす」


先輩「ちょ、ちょっと待って。え。おまえ、どういう意味で言ってたの?」


後輩「いや、だって人魚の里ってもちろん深海っすよね。先輩、そんなところで息もつんすか?」


先輩「……え。もたねえの?」


後輩「普通、もたねえでしょ」


先輩「いや、ほら。特別な魔法とか……」


後輩「だってそんなのがあるなら、わざわざ異世界から連れて行かなくても、その世界に他の種族がいるでしょ」


先輩「…………」


後輩「先輩?」


先輩「……アメリカンドッグ返して」


後輩「え。もう食っちゃったんすけど」


先輩「買って返して」


後輩「えー。先輩、そりゃねえっすよ。……あれ。泣いてるんすか?」


先輩「泣いてねえし」


後輩「ま、元気出してくださいよ。煙草吸います?」


先輩「吸う」


 シュボッ


後輩「ま、海ん中じゃ煙草吸えないんで」


先輩「……そうなあ」



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