先輩、異世界チートするんすか?



先輩「チーッス」


後輩「うっす。先輩、いまからっすか?」


先輩「おう。おまえ上がり?」


後輩「はい。ちょっと腹減ったんで、飯だけ食ってこうかなって」


先輩「おれもちょっとおにぎり食うわ」


後輩「ここで買うの珍しいっすね」


先輩「ほら。いま百均だからさ」


後輩「あ、そうっすね」


先輩「つーか、百均のときって具が少なくね?」


後輩「あー。まあ、心もちそんな気ぃしますね」


先輩「ケチってんなあ。おれが経営者ならむしろ倍増するね。だって客が喜ぶじゃん」


後輩「そのぶん廃棄もすげえことになりそうっすね」


先輩「おまえ、シビアすぎ。そんなんで人生楽しいの?」


後輩「まあ、ぼちぼちっすかね」


 もぐもぐ。


後輩「あ。先輩。そういえばあれから異世界のこと調べたんすか?」


先輩「お、それ聞いちゃうー?」


後輩「むっちゃ気になるっす」


先輩「仕方ねえなあ。聞かせてやるよ。ありがたく聞け?」


後輩「うっす。あざっす」


先輩「おれ、この前、村上のインタビュー読んでて気づいたんだけどさ」


後輩「そんなんあったんすか」


先輩「そうよ。そんでさ、あいつがまず異世界でなにしたか知ってる?」


後輩「サバイバルっすか?」


先輩「違え違え。あいつ料理が得意だったから、まず潰れかけの小料理屋で働いてたんだと」


後輩「あのひと、こっちではイタリアンの修行してたって聞いたことありますね」


先輩「そうそう。そんでうわさ聞いて食べに来たお姫さまがいたらしくてよ。そいつさらってこうとしたチンピラ倒したら、そのままお城の専属コックにされちゃったんだってさ」


後輩「それやばくねえっすか。アメリカでスシ職人やってたら、お忍びでやってきたプレジデント助けて見初められちゃった級じゃないっすか」


先輩「おれも正直、冷や汗もんだったわ」


後輩「やっぱ持ってるやつは違えっすね」


先輩「馬鹿おまえ。おれだって女神さまに選ばれたんだからそんぐれえ余裕だって」


後輩「あ。そっすね」


先輩「ま。それでおれ、気づいたわけよ。まず異世界行ったら、こっちの好きなもんで成り上がってくのがいいんじゃねえかってさ」


後輩「異世界チートってやつっすね」


 ドスッ。


後輩「痛って。先輩、なんで肘で小突くんすか」


先輩「おまえ、本当に馬鹿だな。おれレベルのやつがチートとかおれTUEEEとか、そんな普通の言葉に収まるわけねえだろ」


後輩「あ。そっすね。すんません」


先輩「ったく、気をつけろよ」


後輩「え。それで先輩。なにで、えっと……」


先輩「God」


後輩「は?」


先輩「おれチートじゃなくてGodだから。神になるから。Godって言って」


後輩「あ、はい。そんで先輩、なにで異世界Godになるんすか?」


先輩「おまえ、マジでわかんねえの?」


後輩「うっす。教えてください」


先輩「ハァ。これだから凡人は困るわ。おれといえば、これだろ、これ」


 チョイチョイ。


後輩「なんすか、その卑猥な感じの人差し指と中指。あ、エロテクっすか? 向こうってこっちよりそれ系の情報少ねえって聞きますもんね」


先輩「馬鹿、違えよ。これといったらタバコに決まってんだろ?」


後輩「あー。先輩、確かにタバコ好きっすもんね」


先輩「わかってくれた?」


後輩「なんすか。タバコ売るってことっすか?」


先輩「そういうこと。それで金は稼げるし、おれもタバコ吸えるし、一石二鳥じゃね?」


後輩「やりましたね」


先輩「おうよ。これでいつ女神さまが来ても万全よ。おまえ、おれにかかればどれがうまいか不味いかなんて一発だからね」


後輩「あれ。でも先輩。タバコつくれるんすか?」


先輩「え?」


後輩「え。じゃなくて、タバコ、つくれるんすか?」


先輩「……なに、タバコってつくるもんなの?」


後輩「そりゃそっすよ」


先輩「ちょ、ちょっと待って。じゃあタバコってなんなの?」


後輩「葉っぱっすよ。それを加工するんすよ」


先輩「……マジで?」


後輩「知らなかったんすか?」


先輩「い、いや。知ってたし。あれだろ、そこらへんの山にあるやつでいいんだろ?」


後輩「先輩。コンビニで売ってるの、ちゃんと葉たばこを使ったやつっすよ」


先輩「なに、タバコの葉っぱって種類あんの?」


後輩「そりゃタバコだっていくつも銘柄あるじゃないっすか。それ集めるところから始めないといけませんよ。そもそも異世界にあるかわかんねえっすけど」


先輩「いや、ほら。あれ、あんじゃん。異世界転生の特典」


後輩「最初に女神さまから好きなもんもらえるってやつっすか?」


先輩「女神さま、葉たばこの種とか持ってるでしょ。ほら、完璧」


後輩「そっすかね?」


先輩「あるある。だって聖剣もあるんでしょ? ならないとおかしくね?」


後輩「あー。なんかおれもそんな気ぃしてきましたわ。……あれ。えーっと」


 ペポパ。


後輩「なんか、葉たばこって栽培するのに半年ぐらいかかるみたいっすよ」


先輩「……マジで? その間、おれどうすんの?」


後輩「いや、収入ないでしょ」


先輩「だってこれ、吸うのに五分かかんねえよ?」


後輩「それ言ったら先輩がいま食べたおにぎりだって、具からつくるのけっこう時間かかりますよ」


先輩「え。ツナマヨをご飯で包むだけでしょ」


後輩「ツナマヨってまず魚釣ってくるでしょ。煮るでしょ。刻むでしょ。あ、異世界ってマヨネーズあるんすかね。お米もあるか微妙っすよね」


先輩「…………」


後輩「葉たばこ発酵させたりとか結構な設備が必要らしいし、まずそこからつくるの大変じゃねえっすか?」


先輩「…………」


 ゴホン。


先輩「……あーぁ。女神さま、タバコある世界に連れてってくれねえかなあ」


後輩「今度、聞いてみたらいいんじゃないっすか?」


先輩「そうなあ。ま、とりあえずこれからのシフト面倒くせえなあ」


 シュボッ。


後輩「先輩、はやくレジ行かなくていいんすか?」


先輩「田中さんいるし余裕っしょ。おまえも吸わね?」


後輩「そっすね。いただきます」


 シュボッ。


先輩「あー。タバコうめえ」



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