先輩、異世界ハーレムつくるんすか?



先輩「チーッス」


後輩「あ。先輩、お疲れっす」


先輩「あれ。おまえヤンジャン読んでたっけ?」


後輩「他の雑誌で描いてた好きな作家さん、この前からこっちで連載始めたんで」


先輩「へえ。どんなやつ?」


後輩「あー。まあ、ハーレムものっすかね」


先輩「なに、おまえそんなん好きなの?」


後輩「漫画だったら、わりとなんでも好きなんで」


先輩「おまえ、二次元のパンツなんか見て楽しいわけ?」


後輩「フィクションはフィクションすからね」


先輩「おまえオタクだったなんて意外だわー」


後輩「いやいや。このくらい普通でしょ」


先輩「いや絶対オタクだって。大人なら現実見ろよ」


後輩「現実でこんなのないでしょー」


先輩「馬鹿。それがあるんだなー」


後輩「マジっすか」


 パサッ。


後輩「なんすかこれ。異世界特集の雑誌じゃないっすか」


先輩「ちょっと折り曲げてるとこ読んでみ?」


後輩「えっと。……『いま、異世界でハーレムが熱い』?」


先輩「そゆことー」


 シュボッ。


後輩「つまりあれっすか。異世界で女の子たちとイチャイチャするのが流行ってるってことっすか」


先輩「おまえ、ほんと馬鹿だなー。流行るとか流行らないとかじゃねえって」


後輩「どういう意味っすか」


先輩「選ばれしものってのはそれだけで目立つ存在なわけ。そんなやつがモテないわけないじゃん」


後輩「あ。そっすね」


先輩「ま、日本じゃ不倫は叩かれるけど、真の英雄はそもそもひとりの女に縛られるもんじゃねえよな」


後輩「つまり先輩、異世界でハーレムつくりたいんすか?」


先輩「つくりたいんじゃねえよ。自然にできちゃうの。あー、はやく異世界行きてえなあ」


後輩「え。でもそれ目当てなんすよね?」


先輩「違えし。そんなエロ漫画読んでるやつといっしょにすんなし」


後輩「いや、こんくらいエロじゃないっすけど」


先輩「そんなことはいいんだよ。それよりおれ、向こう行ったときのために訓練しとかなきゃな」


後輩「なにするんすか?」


先輩「そりゃおまえ、何十人の女と結婚するんだぜ。毎日、何人の相手しなくちゃいけねえのって話だよ」


後輩「風俗っすか。先輩、好きっすよね」


先輩「好きじゃねえし。訓練だから。ったく、モテる男は苦労するよな」


後輩「あれ。でも先輩、女の子と話できるんすか?」


先輩「……え。それどういう意味?」


後輩「いや、だって異世界帰りの作家さんの私小説とか、けっこう女の子との会話スキル重要って書いてるじゃないっすか」


先輩「い、いやいや、おまえ、そりゃ英雄なんだからあっちが勝手にしゃべるでしょ」


後輩「そっすか? だって相手、素人さんっすよ。キャバクラじゃねえんだから、こっちから話さねえと辛えんじゃないっすかね」


先輩「いやいや、おまえ知らねえな? 異世界で飢えてたら、まずお節介な女の子と遭遇するのがお決まりじゃん? 会話なんか二の次っしょ」


後輩「先輩、もしっすよ? 先輩が異世界から転生してきた男とばったり遭遇したとして、なにもしゃべらねえそいつを助けようって思います?」


先輩「……思わねえ」


後輩「でしょ。下手すりゃ初日に餓死しますよ」


先輩「お、おいおい。待てよ。そもそも、なんでおれが女の子と会話できない前提なわけ? ちょっとひどくね?」


後輩「だって先輩。シフトのとき田中さんと話してるとこ見たことないんですけど」


先輩「い、いやいやいや。話してんじゃん。なんならさっきも話してきたし」


後輩「先輩。から揚げ串の廃棄時間の確認は会話じゃねっすよ」


先輩「……マジで?」


後輩「もしかして彼女できたことないんじゃ……」


先輩「お、おまえ馬鹿じゃねえの、そんなわけねえじゃん。いくらおまえでも殴るよ?」


後輩「す、すんません」


先輩「ったく、そんなんなら見してやるよ」


後輩「なにをっすか?」


先輩「おれが女と会話できねえとか、そんなわけねえから。これまではそう、あれよ。秘めたる力ってのはいつも晒してちゃ価値がなくなるしな」


後輩「そうかもしれねえっすね」


先輩「よっしゃ。じゃあ休憩終わったし、行ってくるわ。おまえ、ちょっとそっちの防犯カメラで見てろよ?」


後輩「うっす。健闘を祈ってるっす」


 ガチャ。


田中「あ。お疲れさまです」


後輩「あれ。田中さん。どうしたの?」


田中「いえ、ちょっとお客さんの買いたいタバコが棚になくて……」


後輩「どれ?」


田中「マルメンライトっていうやつです」


後輩「あぁ、はいはい。……あー。いま在庫ないわ。ちょっとお客さんに謝っといて」


田中「はい。わかりました」


後輩「そういえば田中さん。さっき言ってた漫画、今週の読んだよ」


田中「あ、どうでした?」


後輩「むっちゃおもしれえよ、これ。今度、コミック買ってこようかなレベル」


田中「ほんとに? あの新連載のラブコメもおもしろいですよね」


後輩「でしょー。あのひとの、おれ大好きなんだよね。他のも読むなら持ってくるよ」


田中「いいんですか?」


後輩「いいよ、いいよ。ちょうど売ろうか迷ってたとこだし」


田中「ありがとうございます。……あ。いけない。レジほったらかし」


後輩「あ。引き留めてごめんね。頑張って」


田中「はーい」


 パタンッ。


後輩「…………」


 シュボッ。


後輩「……先輩。存在感遮断スキルAっすね」


先輩「…………」


後輩「よかったじゃないっすか。固有スキルって異世界で重要らしいっすよ」


先輩「……泣きたい」



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