概要
取り返しのつかないこと、というのが、世の中にはある。
DNA登録法が成立してそろそろ五年になる大学一年生の夏、わたしはその男の子と出会った。愛想がよくて空気を読むけれど、よく見たらちょっと目つきが悪くて、無表情だと怖そうに見える。だけど本の話をすると目尻に皺を作って、照れくさそうに笑った。六月のわたしは彼のことを意識するあまり挙動不審になって、かっこわるくて馬鹿丸出しだった。だけど七月のわたしは、もっと救いようのない馬鹿だった。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!……知識を持つ、ということについて考えさせられるお話。
情報化社会、なんて言われるようになってどれくらい経っただろうか。
差別や偏見は未だになくならない。
わかることが増える、情報が増える、というのは同時に、それに関する正確な知識が必要になる、ということでもあると思う。でないと、簡単にそれっぽいデマやただのイメージを真実だと思い込んでしまう。
SFとのことですが、決して未来の課題ではなく、こういったことは現在進行形で存在するものだと感じました。
なかなか難しいテーマだと思いますが、変に難解にするのではなく、読みやすくて共感しやすい作品にまとめ上げられています。
クオリティの高い、おもしろい作品でした。 - ★★★ Excellent!!!取り返しのつかない一瞬が、静かに鮮烈に綴られる
遺伝子登録法が制定された近未来。
全国民は遺伝子を鑑定、そのデータを管理され、
殺人者になりうる遺伝子を持つ人間は、
法の規定により、警察の監視下に置かれる。
……なんてことを、平々凡々で本好きな大学生の
「私」は、格段、意識もしていなかった。
毎週水曜日の図書館で素顔を見せる
同じ大学の男子、須田原が、
ほんの少し気になる距離になってきた7月。
夢見が悪くて、土砂降りの雨に見舞われた、その日。
ハハオヤと呼んだ響きの冷たさ。
くだらないとわかっていても、膨らんでしまった想像。
何気なくてかけがえのない平穏を、
ただその一瞬で壊してしまう。
表向きにはわからない、心の奥には刺さり続け…続きを読む