情報化社会、なんて言われるようになってどれくらい経っただろうか。
差別や偏見は未だになくならない。
わかることが増える、情報が増える、というのは同時に、それに関する正確な知識が必要になる、ということでもあると思う。でないと、簡単にそれっぽいデマやただのイメージを真実だと思い込んでしまう。
SFとのことですが、決して未来の課題ではなく、こういったことは現在進行形で存在するものだと感じました。
なかなか難しいテーマだと思いますが、変に難解にするのではなく、読みやすくて共感しやすい作品にまとめ上げられています。
クオリティの高い、おもしろい作品でした。
遺伝子登録法が制定された近未来。
全国民は遺伝子を鑑定、そのデータを管理され、
殺人者になりうる遺伝子を持つ人間は、
法の規定により、警察の監視下に置かれる。
……なんてことを、平々凡々で本好きな大学生の
「私」は、格段、意識もしていなかった。
毎週水曜日の図書館で素顔を見せる
同じ大学の男子、須田原が、
ほんの少し気になる距離になってきた7月。
夢見が悪くて、土砂降りの雨に見舞われた、その日。
ハハオヤと呼んだ響きの冷たさ。
くだらないとわかっていても、膨らんでしまった想像。
何気なくてかけがえのない平穏を、
ただその一瞬で壊してしまう。
表向きにはわからない、心の奥には刺さり続ける、
その後悔のなまなましさが苦しい。
経験したことがあるような喪失感に胸が痛んだ。
こういうリアリティが、すごく好き。