第2話 目覚め
○神殿(夜)
アーク、聖職者、学者とともに人造人間の少女を囲んでいる。
人造人間の少女にはケーブルが取り付けられ、変圧器につながれている。
学者は白衣を着ている。
聖職者「これでこの生物の意識が戻るのですね」
学者「人工知能だろう。もっともアーク氏の神の啓示とやらも、科学的に正しいから困るが」
アーク「人工知能も知能には違いない。電源を落としているだけだから、充電が終わってスタンバイ・モードに入れば会話ができるかと」
神殿の遠景に。軍隊が取り巻いて中にマスコミや一般人が入らないようにしている。それでもその外側にはマスコミと野次馬。
再び近景。人造人間の少女につながれた変圧器には通電ランプがともっている。
人造人間は眠っているかのように見える。
目覚めるのを待ちながら学者がぼやく。
学者「あなたが正しいことを言わなくなれば啓示などを信じなくてよくなるのだが。まったく、何者なんですか、あなた?」
アーク「神かどうかは知らないが天から話が聞けるだけさ」
学者は困ったような顔である。
人造人間の少女、目を開ける。
少女「あ……ここは……?」
アーク「目が覚めたようだね」
少女「猫……? しゃべるの?」
アーク「いまのところは君の言語でしゃべっている」
聖職者、学者には通じていないらしく、瞳孔が開くほど驚いてアークを見ている。
少女「人造人間の天国というわけじゃなさそうね」
アーク「別の惑星だ。君の知っている猫に似ている種族というだけ」
少女「あなたは何故、私の言語を知っているの?」
少女、身体を起こそうとする。
アーク「まだ起きない方がいい。充電がフルにはほど遠いから」
アーク「僕は君の時代よりだいたい一万年後の人類だ」
少女「あら? 人類って猫に進化していくのね!」
アーク「違うってば。人工知能にしては君は少しばかり妙な反応をするね」
少女「わたし、チャーミングに作られたから」
アーク「そのあたり自分で言う性格ってことね」
アーク、タブレットを少女に渡す。
アーク「発音確認もできる辞書だ。対訳もついている」
少女「困ったわ。賢くなっちゃうわね」
アーク「無用な心配だろうね」
アーク、苦笑い。
振り返って聖職者と学者に説明する。
アーク「彼女が言語を覚えて充電も完了するのは明日になりそうだ」
学者、アークをじっと見返す。
学者「あんたが宇宙人らしいと発表しても、誰も信じないんだろうな」
アーク「彼女が明らかな宇宙人だから、人気はそっちが独占するってだけさ」
○神殿(朝)
少女「こんにちは。言葉はこれで通じてます? わたしはソーティス。別の星から来たんだけど、別の星っていわれてもどこかわかんないわよね? わたしもわからないの。だいたいが自分の星のことを母星って言うし、種族のことも人間って言うでしょう? わざわざ別の星の別の種族のことを想定して名前つけるわけないもの。そんなわけでどう自己紹介していいものやら」
少女(ソーティス)を猫たちのマスコミが取り巻いている。
ソーティス「ちなみに、わたしは人造人間。惑星の住人に作られたコンピューターってこと。機械ね。コミュニケーションのために作られたの。ホントに単純で珍しくない存在」
ソーティス「でも、わたしはわたしの星では実に普通の、いや、普通よりはかなりキュートな方だけど、それだって基準値の最高ってくらいだから驚くほどじゃないけどね。だから、なんというか……。みんなに教えられることとか、珍しいことっていうのも、最初だけかも」
てへへと笑うソーティス。
カメラのフラッシュが炊かれ、様々な質問が飛ぶ。
「あなたの星の生物は同じ外見なんですか?」
「この星に来られた理由を!」
「あなた大きいですけど、危険はないんですか?」
「見ている人々に一言!」
ソーティス「いやぁ、いっぱい言われても。なんというか、仲良くしてね」
神殿の遠景。周囲でソーティスを囲んで騒ぎ続ける猫たち。
それを遠くから見ているアーク。脇にはシュトが控えていて、野外テーブルにコーヒーセットを置いている。
シュト「人気ですね」
アーク「この星の住民は飽きるのも早いけどね」
やがて日が暮れていき、ようやく囲んでいる猫たちは減る。
○神殿(夜)
ソーティス「コミュニケーションしている限り疲れたりとかないんですが、さすがに人間相手じゃないと疲れますね。それに家に壁がないなんて」
ソーティス、神殿で座って充電している。アーク、一人夜食をとっている。まだカメラと数人の猫は周囲にあるが気にしている様子はない。
アーク「そういう文化なんだよ。大体が開けっ放しだし、見られることは気にしていない」
ソーティス「大事なものとかは?」
アーク「地下室や、狭い部屋がある。狭いところも好きだからね、この星の人は」
ソーティス「あ、猫っぽい」
アーク「そういうこと。ところで、君を作った人の記憶はあるのかい?」
ソーティス「学者です。とってもいい男で昔の俳優のブラッド・ピットに似ているって言われたことも」
アーク「ブラッド・ピット……?」
ソーティス「昔の写真や映像データは残っています。変換できるなら無線で飛ばせますけど」
アーク「ハード改造の必要のあるのは無理だな。いずれ作るか。データを取り出したい」
ソーティス「すぐに見られないんだ。それじゃ意味なかったですね」
アーク「何が?」
ソーティス「ブラッド・ピットに似てないので」
アーク「そりゃ、どうでもいいな」
ソーティス「似てないんですよ」
アーク「そういう情報にならない話をする仕事なんだな」
ソーティス「情報とか気にしたことないですねー」
ソーティス、アークをひょいと抱き上げる。
アーク「うわ、ちょ……」
ソーティス、アークの背中を、喉をなで始める。
アーク「こら、やめ……。いや、う、こ、これは……なんとうか……その……」
アーク、快感にこらえきれない表情で、ついには喉を鳴らし始める。
アーク「そ、そろそろいい……降ろしてくれ……」
アーク、ソーティスの膝から降りてはぁはぁと息を整える。
ソーティス「気持ちよかった?」
アーク「う……否定できない。肉体的快感にはあらがえないものがあるな。だが、いきなり撫でるのはマナー上よろしくないぞ」
ソーティス「それはごめんなさいね。でも、猫を撫でると男の人のウケがよくて」
アーク「あ、そういう考え方ね……」
ソーティス「人間の男はいないんだっけ。でも、どうかな? 猫にも可愛く見えた?」
アーク「僕はなでられていたんだから見えるわけない」
ソーティス「なら可愛いってことで」
アーク「ま、それでいいけどね」
ソーティス、鼻歌を歌い出す。
と、野次馬をしていた猫が、ものすごく熱い目でソーティスを見ていることにアークは気づく。
アーク(OFF)「あ、まずいかも……」
ソーティス、その猫を手招きする。その猫は催眠にかかったようにソーティスに近づき抱き上げられる。
猫を膝にのせてソーティスはなで始める。激しく喉を鳴らしてうっとりする猫。
アーク(OFF)「いかん、いかんよ、これは……」
もはや集まった全猫が興味津々でソーティスと膝でなでられている猫を見つめている。
アーク「なんとも妙なことになったな……」
猫たちはソーティスの前に列を作り始める。
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