猫の手いまだ借りられず
水城正太郎/金澤慎太郎
第1話 流星
○神殿
神殿の遠景。ギリシャ風である。
――いまのところ僕は神様のような境遇にいる。
神殿の中に入る。部屋の仕切りは無く、神殿の屋根と柱のみ。システムキッチンとトイレ、シャワーもむき出しである。パソコンデスク、タブレット、ハンモックがあり、ハンモックには猫が仰向けに寝ている。すべてむき出しであることを除けば居心地よさそうな空間である。
猫にズーム。猫は三毛猫である。ゆっくりと眠りから覚め、目を開く。
――ところで、これが僕だ。
ハンモックからひらりと降りると、猫は直立する。見れば神殿の調度品はすべて猫サイズである。
僕「Hey Siri。朝のニュースを読み上げてくれ」
デスクに置かれたタブレットが起動。音声が流れてくる。
僕はそのままシャワーへ。水が飛び散らぬよう内側に向けてカーテンがあるが外からは丸見えだ。お湯を出してシャワーポールから突き出た小物入れにあるシャンプーを使う。
タブレット「アイドルグループ
僕「芸能ニュースがトップなのは平和な証拠、と」
僕は頭をふきながらキッチンへ。
声「お目覚めですか、アーク様」
声の主は上半身にだけ執事風スーツを着た黒猫。背後には彼が乗ってきたロールスロイス・ファントム風の車が。
アーク(僕)「ありがとう、シュト。時間通りだね。今日は朝食の後に集会に行くから」
シュト(執事)「予定に変更無しということですね。ではすぐに朝食を準備いたします」
――ここは猫の星。ここにやってきてから何年が過ぎたかは忘れたが、もうずいぶんになるはずだ。おそらく数百年もの期間、ここにはさしたる変化は無いようだった。
シュト、トーストと卵、ソーセージを出す。
シュト「本当に集会には車を出さなくてよろしいので?」
アーク「毎度のことながら秘密主義なんだ」
アーク、朝食を終えると、上着を着込んでスクーターで神殿を後にする。
○猫の星の街並み
アークのスクーターは丘を走り街へ。そこは原宿とパリを合わせたような街路。
街を抜けると田舎道。小さな工場や畑がある。農夫も坊主もいる。
やがて街外れの豪邸に到着。アメリカ開拓時代の地主が建てていたような様式。風と共に去りぬのアレ。
裏庭には車庫と厩があり、車や馬がいくつか停まっている。
○ロイスの家
アーク、中に入る。猫の執事が迎える。
執事「アーク様、お待ちしておりました。皆様お待ちです」
屋敷内にはメイド猫が忙しく働いている。やはりメイドも下半身はエプロンだけ。食事の準備がすすめられている。
奥の部屋に入ると長いテーブルに十二匹の猫が待っている。
レン(灰ペルシャ)「遅刻だぞ、アーク」
(虎縞)「いや、間に合ってる。時間ぴったりだ」
(スフィンクス)「ひどく長生きの割には時間に厳しいね、我々」
アーク着席し、食前酒に手をつける。
アーク「時間にルーズになったらこの惑星に飽きている証拠さ。データに出ないゴシップがあればこそ、ここで直接会話しようなんて気になってる」
レン「人間“生きてる”って感覚はそこだよねぇ。芸能、政治の裏ゴシップはたまらないものがあるね」
(虎縞)「これがあるから不死になったも同然」
(スフィンクス)「我ら観察者、いやはや悪趣味だね」
――僕らは人類だ。
地球の全体像。
――発達した科学は人格のデータ化を成功させた。感覚的な不老不死だ。
――自己複製、修復が可能なデータサーバーを設置したことで人類はいよいよ永劫の存在となった。
宇宙ステーションの全体像。
――そうなると宇宙の終焉までのカウントダウン、何をして過ごすかが大事になる。
各惑星へ旅立っていく宇宙船の図。
――僕らは他星の文明に適度に干渉しつつ見守ることに決めた。
――ここは猫のような生き物が知性を持った惑星。
原始時代から進化していく猫の画像。
――現在の彼らの文明は全惑星に電子ネットワークを張り巡らせた程度。
――目下の問題は貧富と知識の格差。
デモをする猫たちの画像。
――迷信と科学が混じり合った文明観察者にとっていちばん楽しい時期だ。
レン「……というわけで、議長が女好きでなかったら、とっくにiPS細胞は完成していたんだよ」
一同笑う。
アーク「あはは、研究者が気弱だと十年単位で延びるよね」
やがて日が暮れて屋敷を去って行く一同。
○猫の星の街並み(夜)
――仲間たちは有力者として社会に潜り込んでいる。
アークもスクーターで帰路に。
――僕は神の啓示を受けた預言者という立場だ。この星では迷信は他の文明に比べて根強い。
○アークの屋敷
帰宅したアークを執事のシュトが迎える。その表情は不安げだ。
シュト「旦那様、流星が落ちてきたのですが、どうやらそれが宇宙人のロケットらしいと報告が……。教皇庁から是非にとも来てくれと」
○ロケット墜落現場
原野にロケットのカプセルが埋まっている。周囲の地面は焦げている。
猫の軍隊が集まっており、ライトで照らしている。
アーク、やってきてその光景を見る。
――まいったな。こいつは地球製だ。
派手な装飾のついたローブを着た聖職者がアークに挨拶にくる。
聖職者「アーク様、これはいったい……? 我らの静かで堂々たる神の啓示にありましたでしょうか?」
アーク「これは……」
アークはロケットの扉を見る。そこに『FX-K7』の文字。
アーク「数万年前の異文明の観測機だ。危険はない。研究対象にも良いだろう」
聖職者「宗教的には?」
アーク「異星人の文明との初接触になるが、神から見れば同胞ということになる。教皇庁としても同胞との発表で問題がない」
――サーバーに問い合わせた結果、初期宇宙開拓時代の観測機だとわかった。まだ人間が人間としての姿をしていた頃、転移先の超空間が安全かどうか調べるためのものだ。型番からするに廃棄された試作機。
聖職者「危険はないそうです」
軍人「開けるぞ」
軍人、部下を連れてロケットの扉に近づく。
軍人「でかいな」
部下「我々より大きい種族のものなんですね」
部下、扉のロックにしがみつくようにして開ける。
中がライトで照らされる。
部下「中に何者かが!」
部下、小型カメラを持って中へ。
アーク「さすがにもう人間は生きていないはずだが……」(OFF)
部下「映像、確認してください。
軍人、聖職者、アーク、ケーブルで部下のカメラとつながれたモニターをのぞき込む。
軍人「これが異星人の姿か! なんと……いや、なんと言っていいか」
聖職者「これが同胞の姿。私には美しく感じます」
画面にはうずくまって寝ているかのような人間の美少女が。
長い黒髪。白いワンピース。長い睫毛の目を閉じた清楚な印象。
――彼女……人造人間だ。
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