まず、本作品から読まないでください。これは連作短編の3作目です。「紫陽花」「雨」を先に読んでください。全作品に共通するのは大正浪漫の香りが漂っているところ。大正時代のポスターに載っている世界が思い浮かびます。3作とも主人公が異なっており、それが合わせ鏡の万華鏡のように、閉じているけれど、中々に面白い世界を浮き上がらせています。3作目で「AはBをこう思っていたの?」とニヤリとする場面も有ります。星の数は、短編にはMAX2つが信条だからです。
続きが気になります。これから先、彼女は何を目的にして生きていくのでしょうか。連作ものなのかわかりませんが、続きがぜひ、読みたいですね!
繊細な匂いと感触が上手く伝わります。独りでいるのは嫌いじゃなくても、自ら去るのではなく、去られる寂しさが良く伝わります。
楽園(パラダイス)の語源は、〝塀で囲まれた〟の意である、と某漫画で読んだことがあります。息苦しい雨は、同時に彼女にとっての盾であり救いであった。もっとも彼女はそれに気付かず、気付かぬままに身を委ねていたのだけれど。美しく、匂い立つような作品でした。それこそ、もっと長編を読んでみたいような。
「紫陽花」「雨」、そして本作品と三部作に渡る物語が完結。作家である男と良き妻を守ろうとした女、そしてその家庭にひょんなことから入り込む田嶋。作者様の描く、雨の降る暗い雰囲気の世界観が、三者三様の心を上手く物語に溶けていました。田嶋と生き残った妻は、雨の日に何を想い、これからどうするのか……。終わったはずの物語なのに、読者の心に強く残って、その後を連想させてくれる素晴らしいお話でした。
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