10年ちょっと前だったか、アメリカの「ロスト」と言うドラマが日本で流行った。飛行機が事故を起こし、乗客は孤島に投げ出される。でも、その孤島には秘密が隠されていて…と、シーズン5か6まで続いた人気番組だった。レンタルビデオ屋の棚を占領したもんだ。
本作品は、そのドラマと雰囲気が似ている。
似ているのは雰囲気だけで、世界観も訴える内容も全く違う。ロストが竜頭蛇尾だっただけに、最後までレベルを落とさなかった本作品には賛辞の拍手を贈りたい。
その本作品だが、数をこなした読者なら、序盤から中盤に移り始めた段階で、「どうなるの?」との疑問は抱きつつ、ある程度は展開を予測できるだろう。
でも、眼目は其処には無い。どこまでネタバレに抵触せずに言えるかだが、本当の主人公は別にいる。序盤の主人公は重要なキーマンで、彼が物語を完結させるが、真の主人公の心境。そして、それ以外の登場人物の心境が真骨頂だ。それらを際立たせるためにも、新世界の開拓時代を作者は選んだのだと思う。
十分に読み応えの有る作品です。
星の数が少ない理由は、単に作者がアピールに戸惑っているだけだと思う。偉そうに言う私自身、どうしたら注目を集められるのか? 是非にも知りたいものですが。
大航海時代のインディオにまつわる物語――いったいどんなお話なんだろう――と読み始め、冒頭で描かれる木製の懐中時計の重厚な存在感に触れてしまったが最後、一気読みしました。
異邦人のフアンの目で語られる「Ⅰ フアン・アレナスの章」では紀行文や冒険物語のようなドキドキに、「Ⅱ フェルナンド・ヒロンの章」ではファンタジーのワクワクに夢中になって、時間を忘れて没頭しました。
このドキドキとワクワクを、これからお読みになるすべての方に味わってほしいから、これ以上は書きたくない!
そんなふうに、内容を語るのを憚ってしまうほど、驚きの結末と、そこに至るまでの過程を余すことなく楽しめるミステリーでもあります。
SFの要素がありますが、雄大な南の島の情景と、細部まで描かれた人の暮らしが、かえって大海に浮かぶ孤島特有の神話や民話を彷彿させます。それくらい、地に足がしっかりついた重厚なストーリー!
フアンとリカルドの明るさと、それとは対照的なフェルナンド…そして、時間の偉大さと、その時間を刻む時計という存在の異質さに、読み終わった今も、ひしひしと感動を味わっています。
ブラボー!
クリストバル・コロンがインディアスに到達したこと、
つまり、コロンブスによる新大陸発見が世に知られ、
スペイン人たちがこぞって中南米に入植を始めたのが、
16世紀にならんとするころだった。
以後200年、海の強国であり続けたスペインが、
つい先ごろ、イギリスの艦隊によって撃破された。
新米船乗りの青年フアンが2度目の航海に出たのは、
そんな時勢の18世紀初頭のことだ。
嵐に見舞われ、船から投げ出されたフアンは、
導かれるように、カンティガという未知の島に流れ着く。
20年前に父が立ち寄り、母と出会い、
不思議なまでに精巧な、動かない懐中時計を手に入れた島だ。
きちんと動く懐中時計など、まだこの世に誕生していない。
正確な時刻を知ることは航海に欠かせない命綱だ。
完成目前とおぼしきこの懐中時計の創り手が島にいると知り、
フアンはその男、フェルナンドと対面する。
フェルナンドは奇妙な男だった。
いや、島のすべてが少しずつ、しかし決定的に奇妙だ。
フアンはまた次々と、奇妙なことに出くわす。
皆が持つ懐中時計、刺青のない子ども、少女の消失。
フアンの章、フェルナンドの章、
そしてフアンの父リカルドの章を経て、
次第に解き明かされていく謎。
惨劇の夜は、過去か現実か、幻か夢か。
かつて本当にそんな島があったかもしれない。
よく似た惨劇は、数え切れないほど起こっただろう。
鮮やかな彩りの南海の孤島を舞台に、
綴られる物語の行く末はあまりに儚く悲しい。
引き込まれる、力強い歴史ファンタジーだった。
綺麗事じゃないのに美しい、その作風がすごく好き。
時は大航海大時代、主人公はカリブ海の植民地にやってきたスペイン人。といっても、大航海時代は十五世紀から十七世紀まで幅がある。授業で一言でくくられた『大航海時代』には、当然ながら人が生きて死に、勝者と敗者、支配者と被支配者、そして光と闇があった。本作はその時代に生きた人のほんの一握りを丁寧に深くそして大胆に描き上げている。とまあ、にわか知識はさておき、なにをおいてもブラボー、と叫びたい。
天才時計職人フェルナンド・ヒロンは影の主人公でも言うべきか。彼の身上を知るとたまらない。本当にたまらない。あの境遇に陥ったのはおそらく彼自身が原因なのだろうけど、それでもたまらない。読み進めて事実が証され、ビエウの彼に対する意図にふれると胸を突かれる。
そして真っ暗な舞台の上、一条のスポットを浴びて、哀しくも明るいであろうフェルナンドの表情がありありと浮かぶのだ。(そうなぜか御作、私の脳内では映画のような映像ではなく、舞台で再生されました)。
短くはないし、とっつきやすいとは言い難い(リーダビリティはすこぶる高い)。けれどぜひ読んでほしい。本当にⅣ章(特にⅣ−2)まで読んで!
フェルナンドに万感の拍手を、作者に花束を送りたい気持ちです。