第2話「レジの金がマイナス4万円」
これは一番初めに働いていた某コンビニでの話。ここはゆるゆるのコンビニであり、テキトーに仕事をしても怒られなかった場所であった。近年はどこも規制がかかり、厳しくなってきてたが、ここだけは非常にゆるかった。恐らく、今でもそんなに厳しくはないと思う。
どれだけ緩いかと言うと、レジの中で本を読んでも怒られないのである。ある日の事、筆者の先輩(女性)が作業放ったらかしで、レジで求人誌を何冊も読みまくっていた。話を聞くと、数週間後にはここを辞めるので、次のバイト先を探しているそうだ。
後日、その先輩が去った。筆者は彼女のそれを真似してレジでホットペッパーを読んでいた。お客さんが来たら「いらっしゃいませー」とレジをし、「ありがとございましたー」と言って客の姿が外に消えたら、また読みはじめる。その繰り返しだ。もちろん、それは暇な時間帯だけで忙しい時はきちんと作業をしていたが、普通はレジで本など読んでいたら大目玉を食らうものだ。だが、筆者はそれで怒られたことはただの一度も無かった。
別の日。レジ精算の時にマイナス4万という意味不明な金額が出た。レジ精算とは店員が必ずやる業務の一つで、レジ内のお札・小銭の数を入力し、レジの金額がきちんと合っているかどうか確かめることだ。ただ、4万という数字は明らかにおかしい。経験上、このような数字は意図的に4万円をお客さんに渡すか、何度も連続で高額のミスをしていないと出ない金額である。だが、筆者にはどちらも記憶にない。
店長は新人の筆者を疑い、意見しても聞く耳持たず。無実を晴らすべく筆者は何時間もかけて防犯カメラで映像をチェックをしたが、どこも不審な部分は無い。そもそもミスをした覚えがないのだ。その時のシフトはお昼過ぎの時間帯なので大して忙しくないし、金額が大きい公共料金等の支払いもなかった。第一、コンビニ業務は二人以上での体制が基本。(場所と時間帯にもよるが)相方と筆者両方を疑うのが普通である。だが、相方の先輩は古株なので、一切お咎めなし。しかも店長はその人を信頼しており、疑うことすらしなかった……。
何故、筆者ばかりが疑われて先輩は疑わないのだろうか。その疑問符を伝えても、店長は筆者に弁償しろ、弁償しろとしつこく迫り、その一点張りであった。正直、この時ほど、
罪を認める気はなかったが、
ただ、これはあくまで憶測で証拠がない。ビデオにもそれらしき変な動きは見られなかった。だが、古株の先輩なら上手くやることもできるだろう。監視カメラといっても死角があるので工夫すれば抜き取ることは非常に容易い。もし、ここで仕事を続ければ、同じようなことがまたあるかもしれない。その時の筆者は憤慨していたが、心のどこかでそうも考えていた。
――もう、こんな職場居てられない。
そう思った筆者はその場で「今日で辞めます」と伝えた。店長は非常に驚いていた。何故なら、その日のシフト表では筆者と店長の二人で夜勤に入る事になっているからだ。
「お前、俺に夜勤一人で入れ言うんか!」と店長は怒鳴り散らしたが、「そうです!」と突っぱね、今度は筆者が聞く耳を持たなかった。しかし、それでも言い続けるので口論となった。30分くらいしてからその場を後にしたものの、家に帰ってからも怒りが収まらず母親にも愚痴をこぼしまくっていた。もちろん、夜勤には行かなかった。
それから2年の月日が流れた。ある日、母からこんな話を聞いた。店長が心臓発作を起こし、店の中で倒れたという。救急車で病院に運ばれたものの、そのまま亡くなったそうだ。別に心臓が悪いわけでもなく、持病があった訳でもないらしい。何故急死したのか?理由は未だに不明だ。ただ、筆者は店長に天罰が下ったものだと思っている。きっと店長は過去にもバイト君達に似たような事を起こしてきたのだろう。もしくはもっと悪いことをしてきたのかもしれない。恐らく、その罰が当たったのだ。でなければ、急に心臓発作を起こすなど考えられない。天は俺の無実をきちんと証明してくれた。まさしく因果応報だ。
噂を確かめるべく、夜中に自転車で店に行ってみた。筆者の自宅からそのコンビニまでは自転車で数分程度だ。確認してみると、やはり店は24時間営業をしておらず、夜中は商品の搬入だけを済ませ、荷物を積んだ台車が店内に放置されていた。一応、明かりはあるものの、扉は閉まっていた。タバコも取り扱いできなくなったようで、「たばこあります」等のミニポスターなどが剥がされていた。
実はコンビニでは、たばこ・酒講習を受けた店長がいないと、たばこやお酒は販売できない決まりになっている。24時間営業がなくなったのは単に夜勤をする人間が店長しかおらず、彼が亡くなった事によって誰も夜勤をする人間がいなくなった事が理由だと思われる。
それからしばらく経過し、店は24時間営業を再開したが、それについても母から噂を聞いた。実は近くにある小学校の前にある系列店の店長が異動となり、亡くなった店長に代わり、新しい店長になったそうだ。今では酒・タバコも復活して営業を再開したが、当時のバイトのメンバーは今では誰もいない。もちろん、現在のバイト君達と筆者は面識がない。
筆者はたまに友達との待ち合わせにそのコンビニ前に行くことがある。
だが、そのコンビニの中に立ち寄ることは絶対にない。
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