第14話「明けない夜はない」


事実上、バイトリーダーになってからする作業が少し増えた。それは店の売上金の本部送金である。この店は直営店ではなく、フランチャイズ契約のお店だ。つまり個人が多額の出費をして、そのコンビニの運営会社と契約を結ぶ。運営会社からお店を出してもいいですよと許可が貰え、初めて店を経営することができる。ただ、フランチャイズは制約も多くあり、SVの指示は絶対だし、売上金も毎日送金しなければならないのだ。




その売上金は普通店長が作り、自らが入金するものだが…。この業務を筆者が行う事となった。最初は大金をカバンに入れて銀行までチャリを漕いだ。大丈夫かなと不安になりつつも、銀行まで素早く向かい、入金していた。後にATMでも入金できるようになり、売上金を入金する。だが、売上金はレジの金を使かわなければならないという、アホな事態に。そう、店長は売上金を作るのが面倒なので指示だけして、あとは放ったらかしなのだ。おまけにそういう時に限ってお客さんが万冊ばかりを使い、入金に必要な千円札が足らなくなるという事が何度もあった。




こういう場合は非常事態なので店の近所にあるパチンコ屋に行く。台を探している振りをして素早く両替し、トイレに入って金額を確かめる。トイレから出たら再び台を探している振りをして、いい台ないな~という雰囲気で去る……そして店に戻り、ATMで入金専用のキャッシュカードを使って用意したお金を本部送金させた。




一度、向かいにある競合店のコンビニで両替が可能だという話を店長がして、俺がその両替役に抜擢(強制)され、渋々行く羽目に。両替を頼むものの、すごい顔で店員さんに睨まれてしまう。平身低頭で頼み込み、何とか両替してくれたが、空気が痛く、まるで針のむしろだった。そこで適当にお菓子を店にいるスタッフの数だけ購入することに。




店に戻り、両替してもらえた事とお菓子をスタッフの皆にプレゼントするとみんな大爆笑。どうもチョイスしたお菓子が微妙だったらしい。でも買わないと雰囲気悪かったしと何とも複雑な気持ちだった。




しかし、ある日の事。SVから本部送金する時間帯が違うと言われ、怒られた。

だが、送金する金額はレジで作る必要がある。その時間帯はどのレジもお札が最低限度しかなく、送金など無理な話だ。おまけに送金後はレジ内のお金がすっからかんに近いので、万札を出されると千円札でお返しできない場合もあり、渋々他店で両替を頼んだこともある。




そして、一番腹が立ったのは給料の遅延だ。給料日当日、筆者は休みになることが多い。その場合、お店に電話をしてから給料をわざわざ職場まで出向いて取りに行く。

この時、昼間などの忙しい時間帯に電話をかけると怒られるので、昼過ぎに電話をかける。それでも店長は不機嫌ですぐに向こうが切ってしまうから困ったものだ。嫌な気持ちを押し殺して受け取りにチャリを走らせ、店まで行く。すぐには渡してくれず、しばらくしてから嫌々渡される。なんで給料を受け取るだけでこんな嫌な思いをしなくてはならないのだろうか。




給料日が仕事の場合、店長がいれば給料の話をする。だが、当の本人は忘れている場合もあり、渡さずにそのまま帰ってしまうことも。そうなると、筆者もその日勤務しているスタッフもお給料を貰えず、後日に後回しされてしまう。呆れて物も言えない。




当時は非常にストレスを抱え込んでいた事もあり、その潤いは「ひぐらしのなく頃に」という漫画・アニメを見ることだった。無理してひぐらし1期のDVDーBOXを3万円で購入し、給料の大半をひぐらしの漫画に注ぎ込み、ずっと読んでいた。また、たまに行くネットカフェで「ふらっと動画」というネットカフェ限定のサイトでアニメ「バーチャファイター」を見ることも楽しみの一つだった。




当時、うちにはPCがあるものの、ネット環境がなく、ネットカフェに行くことがストレス解消でもあった。バーチャファイターの中盤で主人公のアキラが行方不明になり、その安否をヒロインであるパイが心配するシーンがあるのだが、パイはある子供に「明けない夜はない」と励まされる。パイはそのセリフを反芻し、アキラに再び会えることを祈る。




その台詞が当時の筆者には胸に響いた。今でも覚えている、その時の何とも言えない、深くて強い感情を。筆者は行動を開始した。






























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