第16話「新店舗の客層は摩訶不思議」


挫折しそうになるものの、何だかんだと働き続けた毎日。途中で紹介してくれた友人が跳んでしまった事もあったが…。新年も終わって数ヵ月後に新店舗ができた。そこで働く事になるが、人手不足なのでオーナーが同じ2店舗も掛け持ち。そこは飲み屋街に続くオフィスビル郡の中に存在する。近くにはヤクザの事務所もあり、治安の悪い場所だ。10話「小ネタ」で出てくる変な客は実はここのお客達である。だが、それ以上にすごいお客さんがいる。




「小夜子ちゃん、久しぶり~」



「あ、どうもです」




と、いきなり筆者の手を握り締める女性客。いつもの事なので筆者は特に気にせず、明るく笑顔で迎える。歳は大体30過ぎ。いつも酔った状態で来るのでハイテンションだ。どうやら、どこかの店のママらしい。彼女の隣にはどこかの社長か経営者らしき常連の男性客もいて、彼も「小夜子ちゃん、久しぶりやん!」と気さくに声をかけてくれる。




そして、彼女たちが買う量はいつも半端ない。買うものはその日によってランダムで決まりはないが、食料品、お酒、煙草をとにかく大量に買いまくるのだ。1回の買い物で1万円近く使うのだからスゴイ。袋を別けて入れていたが、あまりにもあるので親切心?で「袋くれ。入れていくわ」と自分たちで荷物をつめるようになった。




この時、お箸や場合によってはスプーン、フォークなども大量に入れてあげる。

また、ママさんは犬も飼っており、犬の糞を処理する為のレジ袋が欲しいと言う。

なので筆者はきちんと渡して(大量に)いるのだが、本当に嬉しそうに喜んでくれる。水商売の人は一人暮らしの方も多く、寂しさを紛らわすのはペットの場合が多い。彼女たちにとって、ペットはかけがえのない家族なのだ。だからこそ、嬉しいのだろう。確かに袋を大量に買うと手間だし、お金も馬鹿にならない。だが、コンビニならタダで済む。そのお客さん達は来店すると必ず大量に買ってくれるので、こういう時はケチケチせずに大量に袋を渡してあげればいいのだ。どうせ売るほどあるんだし…。





しかし、どうして筆者を気に入ってくれているのかは不明だ。最初接客した時もごく普通に対応しただけなのだが……どこかしら、フィーリングが合うのかもしれない。

こういう自分のファンを持つことは店員の醍醐味だ。媚を売ろうとすると人はかえって避けていく。だが、誠実にしっかり接客していると、いつも無言の常連さんが急に話しかけてくれたりすることもあるものだ。




そして、自分の話はあまりせず、人の話を聞くことに集中することが大事だったりする。お年寄りの方はこっちが聞いてもいないのに身の上話をすることがある。それは話したくても周りに話す人がおらず、誰かに話したいという気持ちの現れだ。こういうときは面倒くさいと思わず、話を聞いてあげて、相槌を打つと喜ばれる。




嫌なこともあるけど、喜びも大きい。それが店員という職業だと思う。筆者なんか店員としてはまだまだだし、力不足だ。怒られることもできていないと指摘されることもある。改善するように努力はしているけど、実を結ばない事も。もっともっと頑張らないといけない。でも、やってて楽しいなと思うのは接客だったりする。楽しいからこそ、頑張ろうと思えれるのだ。






追記


最近になってママさんが再び店に来てくれた。だが、あの男性客がいない。ママさんに尋ねてみると何と彼は詐欺で逮捕されたらしい。どうも羽振りが良すぎるとママさんも疑問に思っていたそうだ。ただ太客なので指摘できずにいたそう。コンビニで使った金も誰かから騙して得た金だったのだろうか。正直、かなりショックです。今頃、塀の中だろうか。更生してまた遊びに来てくれることを願います。




















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