第3話「おじいちゃんって奴は…」
ゆるゆるコンビニを辞めた筆者は紆余曲折の末、自転車で15分ほどのあるコンビニで働くことになった。そこでも色々な経験をすることになる。あるお客さんが入り、チャイムが鳴る。お客さんは車椅子に乗ったおじいちゃんだ。連れの人はおらず、電動車椅子に乗って一人でやってきたのだ。店長は暖かくその人を出迎えるが、筆者はとても驚いた。車椅子を使うお客さんはまあわかる。だが、びっくりしたのはその車椅子の背中部分に「あいうえお表」があるのだ。
誰でも子供の時にあいうえおを書く練習をするものだが、お年寄りが何故、それを持っているのだろうかと疑問符がいくつも浮かぶ。あいうえお表(しかも手書き)を店長が取り出し、おじいちゃんの前に出す。おじいちゃんはそれに足の小指を震えながら出し、こっくりさんみたく、文字を一つ一つ指していく。どうやら、おじいちゃんは喋ることはおろか、書く事もできないらしい……。
正直、そのお客さんは大変面倒だ。店長がいる時はまだいい。基本的に店長が対応してくれる。しかし、店長がいない時やお客さんがたくさん混んでいる時間帯にそのお爺ちゃんが来ると公害レベルで大変になる。誰か一人が対応しなければならないが、レジも気にしないといけないし、おまけにお年寄りなので動作が非常に遅く、若者みたいに俊敏には絶対に動けない。
「おいおい、このクソ忙しい時間帯には来ないでくれよ」と筆者は何度も祈った。だが、その祈りも虚しく、むしろ忙しい時間帯ほど来るようになる。どこのコンビニでもたぶん同じだと思うが、納品で忙しい時間帯ほど、お客さんがたくさん来店する。この世に神はいないのか。
おまけに相方の先輩がヒステリックで五月蝿い女性だった。二時間ドラマに出てくるような職場によくいる嫌な女をそのまま形にしたような人で、一緒に仕事をすると気が萎えたのはよく覚えている。しかも聞いてもいないのに、自分は他にも会社で働いていて優秀だと評価されており、子供も二人いるとか言い出す。
「だから、何だよ。お前のことなんかどうでもいいわ。聞いてもないのにベラベラ喋りやがって、興味ないわ。ホント、ウザいし、うっさいオバサンだな……」
と、何度も心の中で思った。仕事では優秀でも、男を見る目は最悪だったようだ。本人の弁では、本業とコンビニで生計を立てて子供を養っているそうだ。要するにシングルマザー。男を見る目さえよければ人生変わっていたかも。まあ、そもそもヒステリーな性格だと男がどんなに優しくても別れてしまうのは目に見えているが。
というか、個人的に全く興味がない。そもそも、本当に優秀な人は自分を優秀だと言わない。自分でそう言ってるだけで、本当は周りから煙たがられているのかも。本当に優秀なのかどうかさえ、疑わしい。それに気づかないで勘違いしている人って結構いたりする。
そんな先輩に車椅子のおじいちゃん……これはなかなか頭を悩ます問題だった。結局、この店は数ヶ月程度で辞めることにした。ここで得た教訓はヒス女の言葉は真面目に聞かずに馬耳東風を貫くことである。
ちなみに最近、このコンビニは潰れてしまった。その原因を筆者なりにリサーチしてみた。
<考証>
元々、このコンビニのライバルは交差点向かい側にあるローソンだったのだが、そこが潰れて歯医者になった。ライバルがいない状態で一人勝ちの状態に。しかし、この店の左隣にある何十年と続いたゴルフの打ちっぱなしが潰れてしまった。
それだけなら問題はないのだが、その土地になんと「ライフ」が建設された。おまけに3階建てだ。ライフは今まで隣町に行かないと無かった。しかも、店周辺は団地が数多くあるので、オープン当初から主婦が殺到。
さらにすぐ近くに「スギ薬局」が誕生。ここは食べ物や飲み物も扱い、医薬品も充実している全国チェーン店だ。結果、ライフとスギ薬局に客を奪われてしまった。単価が高く、品揃えもさほど多くない。そんなコンビニに行く客は当然少なく、結果、潰れてしまった。
そのコンビニは最近になって理容・美容室になり、モデルさんの男女の写真が外の外壁にデカデカと貼られ、一発で「ああ、ここ美容室か」とわかるようになっている。うちの近所は美容室・理髪店がとても多いが、ここまで派手にアピールしている店も珍しいと思った。
ちなみに筆者のいきつけの店でもある。予約せずにやってくれるし、最低限の会話だけで後は話しかけてこない。町の散髪屋さんみたいに一々世間話してくるのは筆者からすると鬱陶しいので、それがないのはうれしいのだ。お財布にも優しい金額だし☆
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