★★★ Excellent!!!
万人受けし得ないという感想は、サクヤという鏡を見る 原逸山
この物語の軸はやはりディアーボとの戦いだ。ディアーボを相手に、なぜ存在するのかを確認し、どう戦うべきかを考えて決着つけられるか、その過程を楽しむ話だ。しかしそれとは別の、物語の線がある。主人公たちの心境の物語だ。そしてこれが、注意を要するものだった。
登場人物の語りは、例えば一つの文に読点を4つまでにして用を簡潔に満たすというような、推敲という小説用の美的工事を施されたものではない。やたら読点の多い、思ったことが口から出たままのような日常の会話的語りとなっている。そうした人々の語りは、現実的な臨場感を纏って読み進められる効果を持つ。そしてその特性がゆえ、主人公サクヤの(特に前半の)有様について何やら得も言われぬ不快感が情を刺激して余計に厭ったらしいように感じさせてしまうのだ。
どうしてこう感じられるのか。常識的な倫理観は有るようだがただ状況の移ろうままにぼんやりと敵味方を感覚する所があり、自律的な思考と行動をせず「状況が起こったからこう動いた」ようなどこか詰めの甘い他動人間で、いつまで経っても理解不能と理不尽を嘆くようなセリフが多くて緊急事態の本質に対しとっとと順応できない。こう見えてしまうサクヤに、いら立ちが覚えられるからだ。
だが人間というのは、得てして肝心な時でこそ煮え切らない風になってしまうのだろう。理想ではあっさりと緊急事態に対応して事を無事に撤収させ人々を安寧させる。これを物語として観ている第三者にはストレスが与えられない。しかし現実に起こりがちなのは不手際と失望で、例えばCOVID-19にアベノマスク、東京五輪に女性蔑視、など「いら立ちのもと」は希望的情報よりも当たり易い。なるほど、やれやれ系キャラが妙に嫌われたり、異世界転生やざまぁ話が流行ったりするのは、ストレスレスを求める人々の傾向が原因の一つと言われると腑に落ちる。
ところが、サクヤが…
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