「なんか熱気が凄くて、すごかったです」
「さあ、恒例の処理落ちタイム発動。星が崩壊していく! ということは、先読みコマンドを入れられるのは、最長の21秒おおお!」
「お互いに硬直解けて、先読み一発でも入ればロータス選手の勝利。これは決まりましたかね」
「しかし、ここぞというところで先読み決めて、敗者復活から決勝まで這いあがってきたのがレイ選手。ガン逃げに徹すれば、踏みとどまる可能性もなくはないか!」
「この大舞台でそれは難しいでしょう。追いつめられるほど攻撃的になるものです」
「さて、まもなく処理落ちが明けますよ。観客のカウントダウンも始まっています。スリー、ツー、ワン!!!」
「……おおっと、ジャストガード、ジャスガ、ジャスガ……」
「通らない。ロータス選手、巧妙にタイミングを変えて暴れるものの、あと一発が通らない! そして、レイ選手、ここに来て反撃開始。重心崩して、崩壊した星の中心に運んでいく。火山岩の追加ダメージも乗っているぞ!」
「全読みだと……」
「両選手、すでにコントローラーから手を離しています。もう勝負は決している! 彼らはもう未来の戦いを終えているぞ!」
「いやいや、そのゲージ管理を先読みでやるとか嘘でしょ。これ、え、そういうこと!?」
「おおおああああ。裏回って、削る、けずる、けずりきったあああ。これはどういうことだ、何をしでかしてくれたんだ、レイ選手!!!」
「うわっ。ありえない、っていうか、ありえん」
「両選手ともに椅子の上で放心状態です。それも仕方ない。これは後世まで語りつがれる名勝負でした!」
「何食ったら、あんな芸当できるんだよ……」
「さあさあ、ディアナ年末カップ『ガラクタの朽星』部門。泥沼の決勝を制したのは、まさかのまさか無名のレイ選手だーーーっ!」
「ありえねー。化物かよ。……あっ、すみません、興奮のあまり、つい素が。
こほん。世界最強と名高いゼロとサイレントドロップがオンラインから出てこない中、銅メダルを奪いあう大会と揶揄されていましたが、これは文句なしの金メダルと言えるでしょう。素晴らしい」
「ロータス選手も素晴らしいプレイを魅せてくれました。本当に心揺さぶられる熱戦で、会場総立ちです。歓声と拍手が鳴りやまない――」
~~~
「うっかり優勝してしまった。マジか……」
『感想を一言♡』
「会場。なんか熱気が凄くて、すごかったです」
『語彙力♡』
「特筆することのない人生、こうやってスポットライト当たることもあるんだなぁって」
『自慢のお兄ぃ♡』
「オンライントップのお前と対戦しつづけてきたんだものなぁ。こてんぱんにされながらも、いつの間にか地力付いてたってことか」
『まだ知られてない戦法をいくつか仕込んでおいたぞ♡』
「しかしね。できれば気づかなかったことにしておきたかったんだけど。俺が入れた先読みコマンド、お前、上書きしてただろ……」
『ぎくり♡』
「やっぱハッキングしてたのかよ! あー、チートで勝っちまった。なんてことだ……」
『エントリー名的にはノープロブレム♡』
「そういう問題じゃねえ」
『だいたい決勝相手もチートしてたから、お互い様だぞ♡』
「げ。……二択迫っても、やたら超反応で処理されるなぁとは思ってたけど……」
『手元隠していいから、やりたい放題♡』
「むむむ。先読みコマンドのシステム上、観客や対戦相手に見られないようにしなくちゃいけないからなぁ」
『ちなみに相手のチートソフト、ゲーム機側に仕込まれてた♡』
「うげー、主催とグルかもってことか。きな臭い話になってきたなぁ」
『気をつけて♡』
「これから賞金受けとりに行くんだけど。どうっすかなぁ」
~~~
「はじめまして、マーク・ワーズワースです。大会主催、ディアナ財団の」
「どうも、
「このたびは優勝おめでとうおめでとう。魅せる戦い方でした、実に」
「ありがとうございます」
「ここに口座とサインを書いてください。ちゃちゃっと振りこむので」
「……………………」
「…………」
「この秘密保持の条項は何のためにあるのですか」
「ありふれたものでしょう。形式的な」
「……母親の遺言で、よく分からない書類にサインはするなと言われてまして」
「欲しくないのですか。賞金100万円」
「それより価値のある秘密を、この大会のスキャンダルを知っているとしたらどうします?」
「いいでしょう。我々が用意した刺客を倒した貴公には、この大会の真実を教えましょう。契約なしで」
「…………」
「我々は、ゲーマーを探しています。それもとびっきり特別な、世界を変えるほどの」
「はあ」
「ゲーミフィケーション。それすなわちディアナ財団の教義。ともに面白きこともなき世を生きましょう」
「あの、それはどういう意味で」
「ゲームには変革の力があるということです。世間のイメージとは裏腹に。
たとえば世界各地では、テロ撲滅の名目で空襲が行われていますね? 心ないドローンによって。しかし、あの操縦および射撃を行う人工知能は、心あるシューティングゲーマー達によって鍛えられたものです」
「……え」
「囲碁の人工知能β5を開発したチームが、次に強化学習のターゲットとしたのが戦争ゲームでしたね? ゲームは悪しきことにも使えます。そのように。
しかし我々は、彼らのやり方には与しない。善きことに使わなければなりません、力は」
「善きこと、とは……?」
「とある少数民族の紛争を解決した実績があります。たとえば」
「民族紛争とゲームに、いったい何の関係が……」
「シミュレーションゲームというものがありますね? コンビニを経営したり、街を発展させたりする類の」
「そのトップゲーマーが紛争を解決したって言いたいんですか……」
「
「八重……さん!?」
「おお、湧いてきましたか。やる気が」
「……八重さんは、今もそういうことを続けているんですか」
「その後、彼女は記憶障害が悪化して引退してしまいました。とてもとても残念なことに。難民となった少女を引き取って。
ココ。そのような響きの名をした少女でしたね?」
「ここ……。あ」
「貴公にも活躍してほしい。そのように。まずは調査から」
深層の令妹 ζ(*゚w゚)ζ 夢霧もろは @moroha
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