「大人のエンタメ」を求める方に

「Ⅰ」「Ⅱ」通してのレビューになります。

現代のワシントン郊外にミサイルが着弾。それはなんと大戦中のドイツV2であって、発射したのは旧日本軍の巨大潜水艦伊400型とわかる――という衝撃的なイントロ。すわ派手なミリタリーアクションかサスペンスミステリ開幕かと思うと、これが違う。金融小説っぽくて、ちょっと驚きます。

特に「Ⅰ」はその色が濃い。撃ち込まれた米国が反撃に出ずに延々会議ばかりしているし、主人公のダイバーは前半は本筋に絡まないしで、展開が遅く感じられます。

「Ⅱ」に入ると物語が加速し、Ⅰで張られた伏線回収もあり冒険小説の色合いが強くなります。取材調査を背景にした設定の見事さという本作の美点は、「Ⅱ」に強く感じられるでしょう。「Ⅱ」後半はなかなか怒涛の展開で、オチも見事な伏線回収。カクヨムにはなかなかない「大人のエンタメ」なので、応援したい気分です。


また読了してみると、なんとなく懐かしい感覚。昔読んだ翻訳国際冒険小説の味わいが、そこはかとなく漂っているというか……。

現代のアクションものでは、ネットやデジタル技術を反映させたプロットから逃れられません。それに対し、本作にはそうした色が極小であるからかもしれません。まったりした速度感もあり、現代的で手に汗握るというより、クラシックとして寛いで読める――そうした小説を求める方に向いているでしょう。