第7話 僕はあの子の気持ちに気づいてあげられていなかった?
走り去った僕は、「廊下を走るな」と偶然職員室に向かっていた担任の先生に注意される。その後に、僕の顔が青ざめていた事から「保健室に行った方がいいぞ」とも言われた気もする。僕は葉子とのやりとりでそれだけのショックを受けていたのだろう。「気がする」っていうのは葉子に心配する気持ちが伝わりきらなかった
(どうしてあんな達観したような顔が出来るんだよ! 透けるって事は誰にも認知されなくなってしまうという事なのに!! 僕だって……葉子が消えるって事実を信じたくは……)
考えなしに全力疾走した僕はしばらくして胸の痛みを感じたのもあり、肩で息をする感じがおさまるまで休憩した。たまたま休んでいるそばの通学路にある電柱に『インビジレイザー』認知のための張り紙が貼ってあった。
僕は葉子の病気に出来る事はないのかという気持ちをどうにかしたくて電柱に貼ってある張り紙をひきちぎった。葉子がこれを見る度、認めなきゃいけないと思ったであろう事は想像にかたくない。
「そこのあんた!!」
「! うおぉ~!? え゛~っ」
僕に怒鳴ってきた人物はふくよかな体型のおばさんなのか、それともおばあさんなのか微妙な存在感のある人だった。
「破るとか何を考えてんの!!」
威圧的な声だけで僕の体が震えあがってしまっている。自らに非があるのも明白なので、叱責されるのは当たり前だと思った。どれだけの注意をされるのかと考えてしまって言葉も最低限しか出て来ない。
「え…………あ…………の…………」
「朝も包帯姿の中学生女子が破っていったり、そこの中学校に苦情の電話を入れようかしら。言い訳はある? 何がしたいの? イタズラ!?」
それを聞いて、僕は電柱だけでなく壁にもインビジレイザーについての紙が貼ってある事を知る。その壁に貼ってある貼り紙がところどころ破れているのにも気づいた。この人物は壁に貼ってある貼り紙が色々破られていたら治安が悪い場所だと思われると考えたのかもしれない。強く注意されて当然だ。破れかけの貼り紙を確認した僕は、葉子が自分の病状がこんな訳の分からないものじゃないと思いたくて涙を流しながら破いたのかもと想定する。どうもそんな気がしてならない。
僕はその事実(想像の可能性が高いけど)に愕然とした表情になって、破いた貼り紙を丸めたものを道端に落とした。
(どうして葉子の気持ちを考えてあげられなかったんだろう……苦しんでいたに決まっているのに……)
伝えなきゃいけない事もある、一刻も早く。僕の頭の中の考えでは言葉にするより走り出した方が早いと判断したみたいだ。「まだ話の途中!」と怖い人が叫んでいた気がしないでもないけど、今は葉子と話さないといけないのみが頭を支配して僕の耳に入っていない。
(僕、葉子の気持ちを理解したつもりでいたけど全然出来ていなかったみたいだ……誰からも気づいてもらえない辛さは僕が一番知っていたはずなのに)
どれだけ走り続けたのかなんて覚えてないが、ちょうど葉子に謝罪しなきゃと考えていたし――無意識で葉子の家近くに来ていたのは都合が良かったかも。
「秀英くん!」
家の前で葉子の母親に呼び止められた。
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