第8話 あの子の取ろうとしている行動……

「! 葉子のお母さん!?」

 今はまだ中学校が終わっていないはずなんて些細な問題なのだろう。葉子もどうやら体調が良くないと判断されて早退してきたらしい。なのに、「少し目を離したらいなくなっていて」と取り乱している。自分の娘が姿の見えない人物になったかもしれないと、数少ない事情を知っている人に会えて安心したのかもしれない。


「秀英くん!! ようちゃんが……っ。帰ってきたからお出迎えしたはずなの。でも急にどこにも見当たらなくなって!!」

 仮に病状が悪化して人の目に見えない状態になっていたんだとしても、葉子が母親の呼びかけを無視する訳はない。一時間前後で急激すぎる病状変化があるはずないし。この病気は研究が行き詰まっているらしいけど、病状進行速度だけは早くないと言われているんだ。僕は葉子が行きそうな場所までの道の方に葉子の幻を見た気がした。

「僕も一緒に探すのを手伝います。おばさんは近場を。僕が葉子の行きそうな場所とかお店を見て回りますから」

 僕は何かに導かれるかのように、葉子と初めて出逢った場所までやって来ていた。僕が葉子と話すようになったのは公園じゃない。お母さん同士の付き合いで、買い物に来た時に遊んだスーパーの屋上遊園だったりするのだ。

(どうしちゃったの、葉子……――――――――)

 初めて仲良くなった場所付近の道で落ちてくるものが目に入った。アドバルーンについている布かもしれないから目を離しても問題なかったはずなのだが。


 上を見上げた僕はそれを見落としてはいけない気がしてずっと目をそらさず見続けていた。

「! 包……帯なの……? どの建物から」

 僕の斜め前に建っているお店の屋上からいくつか包帯の布が舞い降りてきているのを確認する。

(あそこは……)

 僕と葉子の忘れられない出会いの場、スーパーの屋上遊園。確かあそこは13時30分から14時30分くらいまではほとんどお客さんが入らない時間帯だったような。僕は嫌な予感が脳裏をよぎって一刻も早く屋上に行かなければならない気がした。取り越し苦労であって欲しい。


         ◇           ◇          ◇

「うう……」

 残念そうに葉子が全身に巻かれた包帯を取り除いていく。

「これだけ消えちゃったら学校に行くのは無理かな……包帯で隠す限度超えちゃったし……」

 病気の症状の進行で左目、左の手のひら、左足の付け根などが消えかかってきている。右手首には進行が始まってきていた。

「結局……聞けなかった。残念だなあ」

 葉子は一定以上体が消えてしまうと、進行速度がやばいくらいになるというのを病状から認めるに至っている。誰にも見えなくなるのはそろそろかなと悟ってしまっていた。心残りがあったけど、どうしようもないかとスーパーの屋上遊園のビルの柵の内側から一歩踏みだそうとする。自分が落ちた頃には姿が消えている確証を覚えているから全身のいたるところの骨が折れていようと、頭が割れてグロい状態になって血まみれだったりしても気づかれないんだろうな。そう想像がついていても、そうすれば自分がいたって存在証明になると考えてしまっていたのかもしれない(血でインビジレイザー患者が自殺したんだろうと予測出来る状態かも。いろんな要因が重なった最悪があったとしても腐敗してしまえば葉子という一人の少女が生きていたって存在を認めてもらえるし)

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