第9話 僕は君がいてくれたからこそ

 私の家族、仲良くしてくれた友達のみんな。それに秀英、先立つ不幸を許して。死後の処理とか最後まで迷惑かけてごめんなさいとそういった心境で後少し葉子が靴を滑らせるだけですべてが終わる。そのはずだった。


「いけない!! 葉子!!」

 半分以上、体の部位が見えない葉子のまだ消えていない左腕をつなぎ止めるかのように力を入れて、僕は葉子の体を腕一本で支える。支えられた時、最後に一目見たかった好意を持ったあいつが助けようとしてくれているなんてと葉子にとっては夢をみているかのような心境になっているかのような表情だ。今なら本心を伝えやすいと思った。

「……しゅう……えい……」

「……悪かった、僕は葉子の感じている絶望を軽減させてあげられなかった……でもこんなっ……!! こんなマネをしなくても!!」


 僕の偽らざる気持ちがどこまで伝わるかなんてわからなかった。でも絶対に言わなきゃいけないと思ったんだ。支えられたままの葉子が聞いてくる。

「……ねぇ、秀英……知ってた? インビジレイザーって見えなくなるだけなの。心まで消えたり死んだりって訳じゃないんだよ」


 葉子を支えたまま、引き上げようとしつつ僕は叫んだ。

「そーだけどね! こんな事しないで!」

 だけど葉子が次に聞いてきた事は重い事実だったのである。

「そうなったら生きてるって思える? 誰からも見てもらえない触れてもらえない。そうしたら誰が私を生きているって証明してくれるの? 誰からも気づいてもらえないのに心だけ残るなんてそんなの……っ、死ぬより辛くないかな?」

 確かに言われた通りだ。葉子の苦しみが僕にも痛いほど伝わってきた。『特に『誰にも……気付かれない』という部分が僕の経験してきた事を思い返すきっかけに。

(それは……僕には葉子きみがいてくれたから……)



 塞ぎこんでいた僕に、遠慮せず声をかけてくれた


 気の弱い僕なんて、誰にも気にしてもらえないだろうって決めつけていた


 どんな形にせよ、誘ってもらった瞬間にどれだけ嬉しい気持ちを覚えたか


 いつも笑顔で手を引いてくれた葉子がいたからこそ


 今の中学校だって、葉子が僕に良く声をかけてくれるから話好きの級友が僕にも興味を持ってくれたんだ。茶化す意見なんか簡単に一蹴して。今この瞬間、誰も信じてくれなくたって良い。僕は君の姿が消えてもいるという事を訴え続けると葉子に誓う。

「泣きそうな表情にならないで……っ、それなら僕が葉子はいるんだって事を永久に証明する気だから!! わかってくれるよね……こんなのダメだ!!」

 大切な事なのでもう一度似たような言葉を伝えた。

「次は僕の番って思ってるよ。昔、葉子が僕をここで見つけてくれたから僕は一人じゃなくなったし……だから……」

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