第6話 僕はどうすれば……

 何で……僕を見つけてくれた《声をかけてくれた》葉子が。

(……その葉子が誰にも気づいてもらえなくなる……?)

それでも葉子の母親はしっかりしている面が強いので近所の人に見られたくないという心理が働いたのだろう。立ち尽くす僕を家に招き入れる。

「……あの包帯の意味はね、隠しているの。もう目には見えない透けている状態なのよ……」

 それを聞かされた僕は、体感時間として半日は思考がマヒしてしまっていた(実際は約2時間程度だったが)

「何で。どうしてようちゃんなの……っ!!」

 葉子の母親が嘆いていた事までしか覚えていなかった。僕もその気持ちは痛い程わかる(血のつながった母娘の情には敵わないだろうけど)


 再度それを告げられた葉子はどんな気持ちを抱えてしまっただろうか。そう思うと、葉子の顔を見れずにいたが当の本人はあっけらかんとしていた。

「ああ。なーんだ、これの話?」

 普通なら予想不可能な葉子の態度を見て、僕は事の重大さを理解するのを放棄してしまっているんじゃと少しでも疑ってしまう。

「え゛……っ、この話は葉子が消えてしまうって事でしょ!?」

 当の彼女が呆れたように、そして僕に言い聞かせるかのように告げてきた。

「騒ぎすぎ。ヤブ医者の妄言なんかに付き合ってられないしね。無視するに限る!」

 認めたくないんだろうと葉子の気持ちを尊重しつつも、病状は深刻なんじゃ!? と気を揉むくらいしか出来ずにいる。

「そう言うけど……っ! だって包帯している体の部分は透明化しちゃっているんでしょ?」


 何でもないかのような反応を葉子が見せた。

「まあね。でも目に見えないだけで何ともないし」

 僕は葉子から肝心の話を聞かせてもらっていないと探りを入れようとする。

「だからって……」

「それより! 秀英! この前早くしてよって言ったわよね……まだ?」

 すごく楽しみにしているかのような表情ですがるような目で葉子が聞いてくるのだが、話をさえぎってまで聞く事なのか……と僕は葉子の不合理な行動に感情が高ぶってきた。

「! ……そ、それよりって葉子は存在が消えそうだって診断されても信じようとしないの?」

 頬をふくらませた葉子が僕に怒る。そんな表情でもかわいさは変わらないなんて思わないといえば嘘になる。


 でも今は僕自身その種の考えが出来る状況じゃないと自覚している。

「もー、またそれ? 悲観していても良いことないもの。無駄な時間!」

 僕は拳に力を入れて、喉がかれんばかりの勢いの声を出す。感情を爆発させて葉子にどれだけ心配していると思っているのという気持ちを伝えた。

「……それはこんな時に伝えられる訳ない!! どうしてそんな気丈な顔を装って耐えようとしているんだよっ!!」

 僕はいたたまれなくなってこの場から走り去る。学校の授業が5分後くらいに再開される事なんてもう頭にはない。葉子は一人取り残された。彼女は何を思ったのか――

「……伝えてくれないかなって願いは通じなかったか……」

 もしかすると、葉子はすでに病気進行が止められないという事実をわかっていたのかもしれない。

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