第3話 葉子、好かれているな~
帰り際、葉子が僕の手にあったハートのシールが貼られた手紙に気づいた。私宛て? と思ったのか「その手紙の相手は誰なのよ」とにやけながら勘ぐってくる。やばい、強気に攻めてこられたら内気な僕は隠し通せない。
「
幼なじみの葉子が僕を呼び捨てで呼ぶ。今まで一緒にいて呼び捨てで名前を呼ばれた時は良い思い出がないのでどうしたものかと考えるのだが――。結局反射的に返事してしまう。
「わぁ、ハイ!!」
振り向きざまの葉子が何か楽しみな事がありそうな朗らかな笑みで僕にこう言ってきた。
「実はウキウキしながら待ってるから。出来れば早く……早く伝えに来てよね!!」
僕は葉子が何もかも見透かしたかのような言い方をして来たので目を丸くする。
「待たせてごめーん。あいつをからかってきちゃった」
僕が考え事に戻る所で、葉子が友達と帰宅しようとしていた。
「ええ!? 葉子。足を怪我しちゃったの?」
「詳しくは内緒。心配しなくても平気だから」
「えー」
◇ ◇
え……伝えて欲しいって……何をだろう? 僕は恋愛経験に乏しくてそういう事に興味もないからわからない。鈍感だっていわれても否定は出来ないかも。
「し~ゅ~う~え~い~」
僕が手紙を鞄カバンにしまってうだうだしている間にそこまで時間経っちゃっていたようだ。近くから不穏な空気を感じ取った僕が恨みがましい声を聞いた時、部活帰りの2人の友人がすぐそこにいた。
「うわっ、洸太!? それに、みなと」
一人の友達が怖い表情でつめよってきて、もう一人が中立的な立場で見守っているという感じである。洸太が僕のYシャツを引っ張って乱暴にゆらしてくる。八つ当たりで怒りをぶつけてきているんだろう。
「どうしてあれだけ活発な上に可憐な子がお前だけにぃぃぃぃっ!! くっそ~!!」
溜まった衝動を吐き出さないと気が済まなそうだから、僕はされるがままでいようと決めた。
「俺だって俺だってえぇ」
そんな洸太の様子にみなとが意外そうに聞いた。僕もみなとが聞いている事が気になるので耳をそばたてる。
「……洸太、もしかして。菜辺田さんはかわいらしいだけの娘じゃないよ。洸太じゃ無理だって」
みなとが諦めるよう諭している。洸太は嫌がっているけど僕も無理だって言葉に出さなくても思っていた。
「んなわけねーよ!!」
どこまで事実か不明だけどと前置きした上で、みなとが信じがたい噂を語り始めた。
「中学生になったんだから大丈夫なんて根拠のない自信を持って――誰かを巻き込んで山に熊退治に行ったとか。滑落坂(急斜面)な坂をソリみたいにして遊んでいたって噂もあるんだよ?」
洸太が言葉を失って辞退した。
「え゛!? それはきついわ……」
「無理!?」
その噂は事実である。いつも一緒に行かされて(巻き込まれて)いるのは僕なんだけど……。みんな僕の切羽づまった声は聞こえないフリをしているんだろうか。まさか葉子、恐怖心を与えて口止めさせているのかな。
僕がふと窓の外に向けると、葉子が校門の外に出る直前だった。……葉子と一緒に帰らない日は安心するけど物足りない複雑な心境。でも誘われたら断る理由がないから無茶ぶりにも付き合っちゃうんだよね。だって僕は葉子がいなかったらきっと、ずっと……。
葉子が女の子同士、仲睦まじくしている様子を見つめながら、僕は心中に感謝の言葉を浮かべる。
(葉子、帰るところなんだ……またね。さっき帰りの挨拶をしそびれちゃったけど)
僕は光の加減か何かで葉子が怪我したという足の付け根が見えなかった。そんな訳ないはず。まさかあり得ないとは思うのだが――
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